取引先との付き合いもろもろでいくつか質問を受ける機会があった。
嘘や脚色は交えないものの、人に聞かれると極端な事例を提示してしまうものだ。
極端にしてもそれはひどいわと反応されることが意外なような、情けないような。
「最後に、この仕事を目指している人に一言」と求められ、やめとけ、とだけ答えた。
飽くまで自分と同じ仕事を目指す人を対象に、今でもやはりお勧めはできない。
その時の話題にも出ていたのだが、そもそも「第二外国語」は市場が小さい。
翻訳関連の雑誌を見れば載っていることもあるが、翻訳市場は9割方が英語だ。
会社によっては中国語の取扱い比率が大きいところもあるが、案件の絶対数は少ない。
「それで食べて行けるなんて」と言われ返答に詰まった。
正直なところ、扶養家族を抱えていては食べて行けまいと思う。
飽くまで私の経験してきた「実務文書の中文和訳」を専業とする場合に限るが。
気づいてみれば、狭義の専業という人を全く知らない。
同業で中国語畑の知人は、誰もが何らかの副業を持っている。
中国語講師、ライター、翻訳学校講師、中日通訳、英日通訳などなど。
実は誰も専業では食べられていないのではないかとすら思う。
市場が小さいということは、案件だけでなく関係者の絶対数も少ないということだ。
私が知る範囲で、中国語専門の部署を置いている翻訳会社はない。
つまり、中国語専門の担当者が皆無なのである。
海外の会社では中国語と言うより日本語の担当者を置いているところはあるが。
中日でしか登録していなくとも英日案件が回ってくるのはそのせいだろう。
閑話休題。何が言いたいのかというと、担当者に中国語の知識を期待してはならない。
ひどい場合だと、文字化けと中国語文字列の区別もつかないのだ。
事情の説明に往復3時間を費やしたことがある。
(その手間暇にかかる機会損失もろもろも考えたいところ)
それほどまで行かなくとも、概要を事前に知らせてもらえないことは日常茶飯事。
文字数と納期だけが降ってくる場合も多い。
得意分野か否かをえり好みしていられないと思った方がいいだろう。
諾否を答える前に原稿を見せてくれるよう頼むことはできる。
ただしその時点で「機密だから」「至急だから」失注する場合もあるので要注意。
否ここで必要なのは注意ではなく覚悟かもしれない。
もう一つ、英語を扱う人にはぴんと来ないと思われるのが、政治問題の影響である。
中華圏各国と日本との関係が冷え込めば、即座に通商関係も冷え込む。
恐らくは「第二外国語」の他言語についても同様の事態が発生しているだろう。
「第二外国語」の世界は英語のそれほど広くないのだ。
なので、もし本当に翻訳専業を目指すのであれば、英語も学ぶことをお勧めする。
どちらが主力となるかは分からない。
私自身の英語力はと言うと、決してプロを名乗れるものではない。
英語翻訳者として求人に応募したことはないが、恐らく採用基準に満たないだろう。
それでも諸事情の兼ね合いで英文和訳を請け負ってしまうことはある。
英語はできて損はない。
「中国語が好きだから仕事にしたい」という向きには再考をお勧めする。