居場所

正午を回ったあたりに電話が鳴る。
昼休み時間にかけてくるなんて急用?
取ってみると、よそに転職したての人だった。
「あと10分ぐらいでそっち着くんだけど、
お昼いっしょに行かない?」
そうか、お昼を食べるんならこの時間だ。
「一人で、ってなんか淋しくってさ」
気持ちは解る。
私も一人で飲食店に入れないクチだ。
電話の主が私の席に現れた。
向かいの人と3人で食べに行くことに。
「やっぱ淋しくなるもんですよね、会社に来てないと」
「淋しくなるから来てるようなもんですよ、俺」
えぇと、複数の人間の見解が一致している模様。
会社は淋しくなったら来る所。
普通の会社員が聞いたらどんな顔するだろうか。
でも、気持ちは解る。
なまじ独立性の高い仕事ばかりしていると、
出勤していなくても業務遂行はできてしまったりする。
でも、いつものようにいつもの顔を見ると落ち着く。
しかも周りがいつもばたばたと多忙だったりすると
何となくその場から運動エネルギーのおこぼれが
もらえてしまうような気になるのも確かだ。

恐ろしく冷静な人々

しゅぼっ!
お昼ごろ、職場の片隅で火柱があがった。
……翻訳企画の三面記事ではない。
東京の某いんてりぢぇんと・びるの今日の出来事である。
正午を回るか否かぐらいのけだるい時間、ふと音のする方向を見ると真っ赤な火柱が。
否、真っ赤というと嘘かも。炎色反応でいうナトリウムの炎があがった。
1秒間ぐらい続いていたように思う。
幸い、何も燃えなかったらしい。ひたすら電線の焼けた臭いだけがしていた。
現場はセキュリティ・ルームと隣の部署の間。
冷蔵庫に電子レンジが載っている。
どちらも明らかに前世紀の遺物、相当な年代ものだ。
いつどちらが火を噴いてもおかしくない風格ではあった。
そのせいなのか、周りがおとなしい。
火元がレンジか冷蔵庫かと噂しあう声は聞こえたが、
会議室に固まるおえらいへの報告は誰もしない。
人事島の人がビル管理室へ連絡をとっただけ。
まるで騒然としないのが傍目に滑稽だった。
見る間に、というよりはゆっくりと、煙が充満。
じわじわと視界が白くなってきたので外食がてら隣の島の女性陣と屋外避難することに。
入った飲食店での会話。
私「火を噴いたのは冷蔵庫でした。足元あたりの柱がすすけてましたから」
隣の人「あれも30年ものぐらいだもんねぇ」
はす向かいの人「パソコンは買い換えるのに……」
隣「でも延焼しなくてよかったよねぇ」
私「してたら洒落になりませんよ、非常口に出られない人どれだけいるか」
はす「えらい人みんな会議中で気づいてませんでしたよね。取り残されちゃうのかも」
隣「みんな気づいてなかったよねぇ」
一同「避難訓練ってやっぱ必要?」
そう、この件で気づいたのだが。
現場は出入り口にほど近く、辺りの人の避難経路にある。
本当にそこで火事になってしまったらかなりの問題だ。
それでも多分、大々的な広報はないと思われる。
冷蔵庫の買い替えが入ればいいほうか。
私の勤務先ときたら、決してけちではないだがだいたいそういうところがアレなのだ。

コンプラ試験

勤務先で今年からコンプライアンス認定制度なるものが開始。
早速その教材と試験要綱が配られた。
試験はパソコンで30分から40分、正答率9割が必須とのこと。
私は正社員ではないが従業員には該当するため、正社員と同等の試験を受けることになっているらしい。
派遣社員には少し軽めの試験が課されるとか。
そもそもコンプライアンスって何なのか。
教材では冒頭から5頁を割いてあれこれ説明している。
法令の遵守だとか、企業の社会的責任だとか。
言ってみれば「よいこ道」ではないか。
私は偽悪の気があるものの、一応よいこ(のつもり)だ。
昔の勤務先で似たような講習を受けた経験はあるが、普通よいこがとるであろう行動を答えればまず問題ない。
ないはずだったが。
一回目の成績は30問中25問の正解で不合格。あれ。惜しいんだか惜しくないんだか。
即座に再受験して合格したものの、やはり自分の業務外について「こんなときどうする」と聞かれても、ねぇ。
むしろ身についてないぞ。
それでも教材は通読した。
面白かったのは、社内報は社外秘ではない、の記述。
……社外報?

出勤日……多分

勤務先では今日と29(金)が出勤日となっていた。
が。人がいない。
いつもなら900人ほどいるフロアに、20人ぐらい。5人いる私の周りが賑やかに感じるほどだ。
しかも会話はなく、ひたすらキーを叩く音ばかり。
遠くで電話がけたたましく鳴っている。
部署まるごと無人なので鳴りっ放し。
仕方がないのでとってやろうと腰を上げたが到着前に鳴り止んでしまった。
もしや有給を吐き出させるために出勤日設定?
聞こうにも人事担当のシマさえ無人なのだった。

面接

勤務先で年度初めの目標設定面接があった。
上司からお題目の提示を受け、相談する機会である。
目標を設定する前提として、現状認識を聞かれた。
図らずも長々と愚痴を言ってしまい、悪いことをしたと思う。
それでも苦笑しながら遮らずに聞いてくれて、素敵な上司だ。
何を訴えたかったのかというと、私の存在感のなさである。
今日現在の主務はあるシステムのお守りなのだが、問題発生時の対応以外に私が役に立っているのか疑問だった。
周りは多忙な人ばかりなのに普段すこぶる暇で、精神的な居場所が職場にない。
上司から評価されたのも、やはり問題対応の早さだった。それはそれで付加価値だっただろうとのこと。
本来ならその対応能力は問題対応より前向きに使いたいね、と慰めに近いお言葉をいただいた。←わざと敬語
最後に、話し合った内容を所定の帳票に書くよう指示が出た。
私「じゃ今メモしていただいたとおり入力しますね」
上司「ぃゃその、きれいに文で書いてよ」
上司「……そういや文章うまいよね、本たくさん読んでるでしょ」
私「???」
上司「メールとか見てても、まとめ方がきれいで分かりやすいよ」
私「これでも前職マニュアル編集でしたから」
助かってるとか感謝してるとか言われてもぴんと来ないながら、日本語をほめられるのは、かなり誇らしい。
それが会社にとって価値あるものかはよく分からないが。まぁそういう難しいことは上司がなんとかしてくれると思う。

つゆはらい

私は田舎者なので、人ごみを歩くのが苦痛である。
知らない人の速さで歩くのがどうも下手なようだ。
引っ越して会社が近くなったのをいいことに、最近では徒歩で通勤したりしている。
今日は企みごとがあって早めに出社したかったので朝からJRに挑戦してみたのだが、案の定ホームが遠い。
主流の人々に逆行するのでなかなか進めないのだ。
それでもどうにか改札を通り、最後の難関とも言えるホームの階段へ到着。
降りようにも爪先すら差し込めない己の逆行ぶりに困惑。
仕方がないから一団をやりすごそうかと考えていると、ずずいっと視界に入る黄色くてでっかい背中。
何とも言えない怖さをまとったおっさんが、無理やり私の前に割り込んで階段を突き進んでいるではないか。
小者の私は割り込みなんて許す気になれないのが普通だが、考えること約二秒。
このおっさん、むしろありがたいぞ。
なんかこわいから近づきたくないけど。
おっさんは私より一回り以上でかいので、露払いに丁度いいのだった。
ちょっと優雅な気分で三段ほど後ろをちょこちょこ降りる。
なんて楽ちん。
…..あれ。露払いがつくのって相撲取りじゃなかったっけ。
ということに気づき、軽くへこむ木曜の朝。

メタ言語

目の前にある語彙を訳さず、そこに語られている事象を語れ。
そんなようなことを翻訳学校で学んだ記憶がある。
ある特定の事象(こと・もの)をずばりと言い表すのではなく、
その一歩手前の状態を示す、いわば「言葉の一歩手前」をメタ言語と称していたのだが、
試しにgoogleで「メタ言語」を検索したところ、上位に出てきたのは情報処理用語が多かった。
まあプログラミングも言語の世界と言えば言語の世界だが、なんだか感情的に釈然としない。
同じことを言っているような、そうでもないような、もやもや。
翻訳では新語や造語に出くわしたときの逃げ道?としてメタ言語の発想を考えることがままある。
……と非常に長い前ふりを置いたが。
本日の主役は「サラダ用調味料」。
ダイエット情報のページから健康素材を検索しているうち流れ着いた厚生労働省の記事(注)で、
身体に脂肪がつきにくい、マヨネーズの代用品を指していた。
久々に面白いものを見た気分だ。
そうか、マヨネーズってサラダ用だったんだ。
そのうち「お好み焼き・コナモン用調味料」が認可されるといいな。
ちなみに、無油分のドレッシング代用品たちは得てして「ドレッシングタイプ調味料」だったりする。
日本語っていろいろな方向に逃げられて便利だわ(半べそ)。
(注)その記事の名前はこんなにすごい
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会
新開発食品評価第一調査会調査審議結果

小冊子を持つ女

勤務先のとある社員さんに頼まれ、昼休みに近くの駅まで名刺を届けた。
待ち合わせ時間ぎりぎりまで不覚にものんびり食事していたため暢気な街中をばたばた走った。
幸い特に待たせたわけでもないようだった。
名刺を箱ごと渡すと、引き換えに小冊子の束。
午前中の訪問先に持って行った残りらしい。
「持って来すぎた」というので、一掴み預かって会社へ運ぶことに。
駅で目立つ冊子を受け取って歩き出したせいか、すれ違う人々が「いりません」という顔をする。
や、別に配りませんから。
持って帰るだけですってば。
心配しなくていいから見ないで。
片手には黄色と白の冊子の束。もう片方には地味な小さい手提げ。
やはり配って歩くように見えたのだろうか。
悔しいので足早に移動したが、逆に怪しかっただろうか。

国家的な問題と個人的な感情

日記に政治色はつけたくなかったのだが。
先週ごろから中国がすごいことになっている。
非力な一個人としては傍観するよりないのだが、生卵やペンキが飛び交うだけならまだしも、
「小日本、死すべし」には怖いものを感じる。
日本から渡航している民間人が被害に遭っているが、果たして彼ら本人達にそれほど罪があるのだろうか?
どうも背景には教育によって仕込まれた「恨み」が渦巻いている気がしてならない。
自虐的な日本の歴史教科書、という言葉をよく見るが
恐らく他のアジア諸国には「他虐的」な教科書があり「日本=悪」という図式で秩序の安定を図っているのでは。
そりゃ侵略戦争は悪いに決まっている。
でも「日本=悪」は正論なのか?
侵略や植民の経験を持つ国は日本だけではない。
他の国や民族も同じように糾弾されているだろうか?
そうであればよい、ということではないが、どうも過剰に強調されている気がする今日この頃。
いらんことする執政者が多いのも確かで、むしろ「一部執政者=無駄に悪」だと思っている。
報道に載る立場の人間こそ自重してもらいたいのだがどうしてこう無駄に目立とうとするものなのか。
おかげでかなりの数の民間人が被害に遭ってるのに自分達は謝罪しないのかい、皆さんに。
被害国はもとより、矢面に立つ日本人達にも。