結論:一人旅は物足りない

地下鉄の始発とリニアを乗り継いで浦東空港へ。
今回は本当に辞書を買い込んだだけで旅行らしいことは何もしなかった。
雨に見舞われたこともあるが、やはり連れがいないと面白みがない。
食事やら買い物やらの時間が勝手にできるのは楽と言えば楽ではあるが、
それ以上のものがない。
今回は上海航空を利用したのだが、思いのほか対応がよかった。
チェックイン開始予定時刻より30分も早くカウンター前に着いたのだが、
すでに受け付けを開始していた。
搭乗案内もバス移動のためか予告より20分ほど早く、待ち時間が少なくて快適だった。
尤も離陸許可がなかなか出なかったので早く出たり着いたりはしなかったのだが。
復路便は往路便より日本人しかも団体客の割合が高く、無駄に寂しかった。

普段着で歩く上海

余り日本人らしすぎるいでたちは防犯上の不安を感じる。
しかしある程度きちんとしていないとホテルに怪しまれかねない。
ということで上は普段着のニット、下はぴったりめのブーツカットパンツを選んでみたのだが。
思った以上に周りと同化してしまったらしく、行く先々の店員から上海語で話しかけられる。
聞き取れずおどおどしているとようやく標準語に直してくれたのが何人いたか。
ホテルにチェックインするときはすかさず「ちぇっくいんぷりーず!」と自分が外国人であることを強調。
外資系のせいか応対は英語でしてくれた。ぃゃ中国語でいいんだけどね、標準語だったら。
ホームページに日本語版があるからといって日本語要員がいつもいるとは限らないらしい。
朝昼兼用の食事は中山公園駅すぐのマクドナルドで摂った。
なにぶん一人で飲食店に入るのが苦手なので、どうしてもこういう店に頼ってしまう。
特に味の冒険を怖がる訳でもないのに勿体ないと思いつつ、注文したのは「チーズたまごバーガー」セット。
バーガーとは言うものの肉は入っていない(抜けと言ったわけではない)。
目玉焼きにとろけたチーズが乗っていて、ハンバーガー用のパンで挟んである一品。
決して不味くはないのだが、マクドナルドというよりネイサンズの味だった。チーズのせいか。
ちなみに100円マックのような商品群もあった。6元マック。ほぼ100円。
品揃えはチーズバーガー、チキンフィレオ、マックラップチキン?
時間帯が朝マックでさえなかったら6元マックのほうがよかったかもしれない。
市内の移動はもっぱら地下鉄を使った。
ホームにはご丁寧に「下車位置」と「乗車待機位置」がそれぞれ明示されているが、
誰もが平然と「下車位置」に並ぶ。人が降りる前に乗る。割り込む。相変わらずだ。
路線が増えたり切符がICカードになったりと地下鉄は変わっているのだが。
留学当時より混んでいるのは豊かな人が増えたのだろうか、気のせいだろうか。
かつては庶民はバス、小金持ちと外人は地下鉄やタクシーだった気がする。
そう言えば空港からのリニアモーターカーもほぼ満員で、中国人が多かった。
中国なんだからそれで当たり前、という感覚はない。
数年前に体験乗車したときは空席が多く、しかも白人だらけだった。
30kmを8分(拘束時間は20分弱)で移動することに40元も50元も払う人がこんなにいるとは。
上海の人は変わったのだろうか、そうでもないのだろうか。

巨大な書店

私が上海を訪れる目的は、以前から決まって本の購入である。
特に今回は他のことをする気がほとんどない。
旅好きな私が我ながら珍しいことに余り出歩く欲を感じないのは
入国時の地下鉄で通勤ラッシュにまみれたせいだろうか。
今回はいつもの上海書城ではなく、中山公園の龍強書城なるところへ行ってみた。
紹介記事によるとだいぶ広そうだし、なにしろ地下鉄駅に直結のビルだというのがうれしい。
大量に買い込むことが予想されているだけに、駅から遠いのは避けたいところ。
入ってみるとBGMは何故かELT(もちろん日本語)だった。
日本人からすると今更といった感のある曲目だったが、意外と静かな雰囲気に溶け込んでいる。
売り場も広いが通路も広い。立ち読み?の人が足を伸ばして座っていてもぶつかる心配がなかった。
フロアの中程には休憩用の椅子まで用意されている親切さ。
店員さんもお客も「文明的」で、落ち着いて店内を散策できた。
しかし探しても探しても目的の代物が見つからない。
英漢辞書だけでも200冊ぐらいあるのだが、どれも語学学習用の趣で仕事用のそれではないのだ。
諦めていつもの本屋に行こうかと思い始めた矢先、目の前に階段を発見。
中二階構造になっているらしくもう1フロアあったのだ。
科学技術の、工業の、電機か機械、と訪ね歩いてようやく発見。
一冊でも手に取るのを躊躇する分厚さの専門用語辞書。
電機と機械が一冊になっているらしい。
ついでに科学技術全般のものと化学のものも探し出した。
あいにくシリーズはばらばらで対訳が日本語だったり英語だったりするが
解釈のヒントになればそれで満足なのでそのまま買い込む。
三冊の辞書を抱えてそのまま生活書あたりを見ていると、
店員らしき男性がカートを差し出してくれた。
両手が空いたのと心遣いが嬉しかったのとで気分よく薬膳やら人物伝やらを物色。
流石に何でもしょって帰るわけにはいかないので家庭料理と自己啓発の本を買うことにした。

10年ぶりの関空

電機、機械分野に特化した専門用語辞書が欲しくなり唐突に上海旅行?を手配した。
工業用語辞書と情報、通信分野の辞書は手元にあるものの、
どうも需要として大がかりな電機やら機械やらのほうが多いらしいので買い足さねばと思った次第。
お気に入りの辞書とお揃いで買おうと思ったら大荷物必至なのでほぼ空のスーツケースを用意した。
大学を出て以来ずっと東日本に住んでいたこともあり、関空を使うのはちょうど10年ぶりになる。
真新しいラウンジができてみたり、よくわからない会員優待制度ができてみたりと時代を感じるものの
これがかの有名な閑古鳥か!というほどの空きようが一番の驚きだった。
いくら夏休み期間を外した平日とはいえ、施設のどこにも行列ができていない。
そば屋は一人で入っても厭な顔ひとつされず、隣の席は空いていた。
手荷物検査と出国審査を合わせても10分とかからなかった。
羽田(の国内線)の手荷物検査より係も少ないが乗客も少ないのだ。
あるいは搭乗便の遅延のせいで混む時間帯を外れた幸運もあったかもしれない。
それにしても。出国手続き後に入ったラウンジは独占状態。
ラウンジでない待合い席にも人影はまばら。
何だか心配と言うのもおかしいが、流石にがらがらすぎではないだろうか……。

痛くすぐったい日本語

そろそろ新しい専門用語辞書を仕入れに行こうかと上海のツアーを物色していたところ。
ツアーの宿泊先候補に見慣れないホテルがあちこち出てきた。
留学していたのが10年も昔になるせいか、頭の中では「上海=虹橋」なので
いまだに浦東地区(=今をときめく国際化地区)の情報がぴんとこないのだ。
外資系の素敵な?ホテルが出てきたので詳細を調べるべく公式ページを検索してみると、
いかにもな英語ページにいかにもな多言語対応。やはりどうも素敵なホテルのようだ。
英語で説明を読むのはしんどいので日本語表示に切り換えたところ、いたたたたたた……。
何も悪くない。間違っていない。恐らく日本人が訳している。だが堪らなく翻訳臭い。
「親しいサービスと居心地良いご滞在はいかがですか。 」
いかがと言われても。
訳した人の気持ちは勝手に分かる、引きつり笑いを禁じ得ない。
似たような文を書いた記憶があるので痛し痒し、他人目線で見るとくすぐったい。
どうしてもホテルの案内文はそうなりがちなのだと思う。
転がっている訳例がそんな感じのものばかりだし、
翻訳会社が細かく指示してくれない限り原文の表現を切り捨てるには勇気が要る。
意訳でカッコヨくしていいのか、ダサくなっても原文に忠実にすべきなのかは常にかなり迷うのだ。

お休みではない地域

日本はお盆休み。商店街のあちこちでシャッターが降りている。
中国は噂によると五輪休み。観戦でどこの会社も営業している場合ではないとか。
そんなわけでさぞや暇だろうと思っていた今週だが、意外にも引き合いは複数もらえた。
米国からと台湾から。
しかも二社とも久々に声を掛けてくれたところなので何だか笑いが漏れた。

すわ失業の危機?!

今週は翻訳業務にいそしんでいたのだが、気になるニュースが入った。
Google人力翻訳センターと、その後の狙いなる刺激的な見出し。
あのGoogleが「Google Translation Center」なるサービスを立ち上げるという。
リンク先では「最初に機械翻訳でざっと訳しておき、翻訳者が最初から訳すのではなくミスを捜していくということになるので、作業がかなり容易になることだろう。」とあるが、そこまでは真に受ける気もない。
少なくとも向こう数年、機械翻訳のレベルは下訳に足りるほどでもないからだ。

それより恐ろしいと思っているのは、「Google Translation Center」に翻訳メモリ機能があるということだ。
Google の言う翻訳メモリとやらが我々の慣れ親しんできたTRADOSなどに対抗しうるものだとすると、
・原文と訳文の対(=対訳)がネット上で曝される
・プロが利用すれば当然、プロの仕事が公開される
・規格やマニュアルなどの定型文書が一部書き換えになっても素人が更新管理しうる
これが普及してしまうと技術翻訳で食べることは不可能に近くなってくる。
報酬の安い中華圏の翻訳者とは競合してもなんとかやってきたが、
無料公開となってしまうと分が悪いどころではない。
クライアント(訳したい原文を持っている人)が無料の内容で満足してしまったら終了である。競合の余地もない。

ただでさえ翻訳メモリを使うように指定された仕事は労力の割に報酬が低い。
競合(翻訳メモリの使い手)が少ないのがほぼ唯一の利点と言える。
現状では翻訳メモリというソフトがまだまだ普及していないためだが、
・難しい(操作だけでなく、概念がややこしい)
・高い(新規に買うと10万はかかる)
という敷居の高さに手を拱いていた翻訳者がどれだけいて、今後どれだけGoogleのそれに食指を動かすのだろう。
そして、訳文を公開することのリスクと翻訳の進めやすさを天秤にかけてどちらが強いのだろう。
「Google Translation Center」にも仕事の斡旋機能はあるようだし、
翻訳業、翻訳業界が滅びることには直接つながらないだろうとは思う。
しかし個人翻訳者は淘汰されていく可能性が濃厚になってきた。
決して自分の仕事に自信がないわけではないが、やはり一抹の不安が拭えない。

こんな日に限って

全ては自業自得、昨今の言葉で言うところの自己責任なのだが。
日曜に旧友の舞台があったので東京に行ったところ、携帯電話の充電コードを忘れた。
珍しいほど携帯電話を使う日なのは分かっていたというのに。
一緒に見に行く友達と待ち合わせたり、夕方に会食することになった別の友達に時間を確認したり。
あくる月曜日は昔いた職場の人々とお昼をご一緒した。
ふとメールチェックしたところ、新しい取引先から引き合いが入っている。
第一報までは携帯から返信できたが、やはりパソコンでネットにつなぎたい。
食後すぐに空港へ向かい、そそくさとラウンジへ。
手持ちのカードで無料だったのはいいが、返したもらったとたんにそのカードを何故かなくす。
しばらく探したが見つからないので、開き直ってパソコンを立ち上げた。
接続していない間にまとめてあったファイルを依頼主に送信すること数件。
届いていたメールの添付ファイルに目を通し、返信をしたためる。
一部の翻訳にとりかかって間もなく、今度はパソコンの電池が切れた。
さすがにラウンジから電気をもらうのも気が引けるので、再びカードを探しつつゲートへ移動。
往路と違って復路は機内が混雑しており、通路側の席になったのでほどなく寝た。
着陸して携帯の電源を入れ直してみると案の定、電池の残量警告が。
しかもそんなときに限って得意先からも引き合いが入っていた。
息も絶え絶えの携帯からいつになく短い返信を出してお茶を濁す。
家に着いたときにはやはり力尽きていた。
自分もたいがい疲れてはいたのだが、納期の都合もあって休む暇はない。
携帯を充電台に横たえて家の電話からカード会社に謝り、やっと日常に戻ると
しばらくかまってやらなかったのが気に障ったのか、愛鳥にギーギー怒られた。