そこにある小さな幸せ

素直で、無遠慮で、元気で、優しくて、全く飼い主に似ていない。
呼んだからといって来てくれるとも限らないが、ちゃんと分かっている。
人の元気が足りないと、決まって肩でさえずり続ける。
もういいから、と断っても、苦笑が出るまで離れない。
苦笑でいいから笑えと促しているかのように。
ちょっと笑ってため息をつくと、機嫌を良くしたかのように飛び降りて走り出す。
普段なら視界の果てまで飛んでいってしまうのに、そういうときはいなくならない。
ちょこちょこっと振り返り、視線を確かめてからまた走る。
あるいは誘ってくれているのかもしれない。
振り返った頃合いを見計らって指を出すと、待ってましたとばかりにちょこんと乗る。
それでも無遠慮なのですぐ飽きて降りる。
何もない少し寂しい日常をいつもにぎやかにしてくれている。
いつでも、たぶんどこでも、この子がいれば優しい日常。

こまのお客さん

先日こまを預かってくれた方が、こまの顔を見にいらした。
いつでも遊びに来てください、とは言っていたものの、お互いに間が合わず今に至る。
ちょうど中国から取り寄せたエコバッグが届いたので、引き取りがてらいかが?と声をかけていたのだ。
去年まで来客など数えるほどもなかった我が家に、今は遊びに来てくれる人が二人はいる。私の客人か、こまの客人かは分からないが。
預けている間は遊んでもらったりもしていたくせに、どうも誰かさんは覚えていない様子。
赤の他人を見るような顔こそしなかったが、しばらく彼女に近づかなかった。
まるでべったり懐いているかのように、私の肩を離れない。いつもなら、部屋中をさんざん飛び回っているところなのだが。
それならそれで、と例のエコバッグを取り出すと、何かのスイッチが入ったらしい。
そそくさと肩を降りて、バッグに乗り移った。しかもエコバッグではなく客人の鞄。
私は慌てて追い払おうとしたが、彼女は全く意に介さず、笑顔でカメラを取り出した。
「一応こっちから見張っておきますが、革の部品はかじられないように気をつけてください」
「いえいえ大丈夫です、昔ユニクロで買った鞄なんで」
…大丈夫の意味がこちらの意図と違う。
見る間にこまは好き勝手にちょこちょこ走ったり飛んだりと暴れだし、ますます手乗りらしくなくなってきた。
全く接客らしいことをしてくれず、私は困っていたのだが。
小桜インコを飼っていない彼女は、それを眺めるだけで満足なのだという。
「うちの子、全然こういう遊び方をしてくれなくって。必ず相手してやらないと怒るから、眺めていられないんです」とのこと。
「こんな有り様で良かったら、懲りずにまた来てやってくださいね」と返事するのがやっとだった。