ラブソングの歌詞ではない。
長年の取引関係ゆえに思うところあって言い出せなかった待遇の改善である。
相手側要因
・プロとしての初仕事をくれた会社の担当者が独立して作った会社の人
・当人が前職で窓口担当者になってからも長い
・知っている限りすべての取引先の中で最も親切に翻訳以外の処理をしてくれる
・返答も処理も人一倍早い
自分側要因
・全くの駆け出しの頃に契約したので単価は安いが優先して引き受けてきた
・重く恩に着て同社と交渉らしい交渉をしたことがない
・これまで分野内容を理由に断ったことはない
・某客先からの評価が高いらしくリピート指名を受けている
というような背景のところに年度末進行とばかり大量の原稿がやってきた。
毎年この時期に来ている作文ならと思って引き受けたら違うものがあったのだ。
確認せず引き受けるほうが悪いと責めるなかれ。
同じ発注番号の追加分として提示されているのに条件が変わる謂われはない。
しかも、混じっていたのがよりによって最も苦手な文芸分野だった。
恐らく中日翻訳者には珍しいのだろうが、私には文芸の素養も履修単位もない。
(決して自慢できたことではないが、もろもろあるので開き直るほかない)
お察しいただけたか分からないが、文芸ものは原文が異常に文学的/詩的なのである。
中国の文化として、教養は惜しみなく披露するものらしい。
なので最高学府で学ぶ大学生たるもの、ゴーリキーから村上春樹まで語るのだ。
しかし飽くまで文学的に、出典や原著者を示すことなく。
ともあれ引き受けてしまったものは処理して納品したのだが。
他社案件で前後が痞えていて苦しかったこともあり、待遇改善を訴えてしまった。
せめて文芸ものだけは別案件にしてくれ、さもなくば客先ごと全部お断りだと。
干されてもやむなし、と覚悟しつつも、理性的な文にすべく何度も直しはしたが。
と、その返事が「納期が厳しすぎるせいでしょうか?納期以外のご要望など」。
できるだけ誠実に、苦手である理由と外して欲しい旨を答えた。
自分にとって難しいものが大量でしかも安いので負担が大きいのだと。
流石に言い過ぎたなと思っていたが、むしろ「単価のご要望は」と訊いてくれた。
「素直に状況をご連絡頂き、感謝申し上げます。
古川様は私たちにとって、単なる依頼先・翻訳者ではなく、最も信頼できる翻訳の仲間であります。」
が目に入ってしばらく挙措を失った。
この日本語が出せるレベルの中国人にそれだけ評価され信頼されていることに。
そして単価は本件から調整してくれるという。
十余年ぶりにいきなり切り上げるのも恐縮だったが、他社なみにしてもらった。
難しいものが難しいのは先方も承知の上でどうしようもないらしい。
なので他の待遇はできるだけ改善しましょうということだ。
また借りができてしまったような気がする。
うなりました。
失礼を承知でいいますが、今まで一番示唆に富むエントリだと感じました。