余部鉄橋

ダンナが余部鉄橋を見たいと言うので、朝からそちらへ向かうことに。ちょうどぐるりんパスの周遊区間も浜坂まであり、交通費もかからない。
発車時刻さえ押さえておけば片道50分ぐらいだね、などと甘い気持ちで宿を後にした。
単線区間どころか、ディーゼル車の二両編成。自分でボタンを押さないと扉が開かない。
バスでもないのに「ワンマン」で、整理券やら運賃箱やらまであった。
その意味が分かったのはしばらく進んでから。
駅名がアナウンスされ、列車は止まった。が、駅舎も改札もない。
だから路線バスよろしく整理券-現金精算方式が生きていたのか。
そうでない駅も何カ所かあるのが混乱に拍車を掛ける。
乗客のほぼ全員が観光客らしく、香住でどっさり乗って我々と共に餘部で降りた。


餘部駅にも何もなかった。あるのは鉄橋と、踏切と、無性に長い坂道。
先ほどの団体客はツアーガイドに先導されてどやどやと坂道を下りていった。
「この坂を戻るのはご負担なので、帰りはバスが参ります」だと。至れり尽くせりのようだ。
我々はツアー客ではないので、折り返し登ってくる他ない。
十分後ぐらいに来る列車で引き返そうかと言っていたら、何を読み間違えていたのかその便は通過。
次の列車まで一時間ほどある。
そんな長い時間を潰しきれるのかと心配になりながら、ようやく駅の坂道を下りた。
暗紅色の鉄橋は、確かに掛け替えが必要そうな感じがした。
素人ながらにボロボロだということは分かる。
奥に新しい鉄筋コンクリートの橋が架かりつつあった。
橋の真下に行くと、JV担当者からの「おたより」が掲示されていた。
地域住民に向けた時節の挨拶と進捗報告とがこっ丁寧に書かれている。
新しい橋についての概要やら工事の進捗やらはそこで知ることができたが、古い橋については……。
特に観光遺産として残そうとしてはいないらしく、看板がぺろりと一枚。
幹線道路の際に事故犠牲者を供養する菩薩像があるだけで、特に案内もなかった。
しばらく橋そのものと「おたより」を見物したが、時間が余っている。
半ば致し方なく唯一らしき喫茶店に入った。
洒落たジャズを流していながらテレビのワイドショーがかまびすしく、出窓で猫がのほほんと寝ていた。
流石と言うべきか店内にも何枚か往時の鉄橋の写真が飾られており、いい味を出している。
公衆電話の横に貼られたハイヤーの広告が、交通の便を物語っていた。
帰りの坂は思った通りのきつさで、息切れすらした。
丘の上の団地で育って坂道には慣れているはずなのに、脚より胸に来る。
我々の数歩後を上り始めた初老の男性は、十分ほど余分に費やして何とか登り切った。
これがJRの駅とは、JRも大変だ。

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