とほく昭和のおほん時

古い歌を聴いていると、電話の使い方で時代を感じることがある。
「ダイヤル回して手を止めた」
平成生まれの子にダイヤルを回すという概念が分かるだろうか?
確か電話のかけ方は学校では習わなかった。
家庭でそれとなく教わって知るものだとしたら、電話の発信は最早ダイヤルではないはずだ。
尤も親世代はダイヤルを知っているだろうとは思うが、伝えうるものだろうか。
「手で覚えてる電話番号」
携帯電話ではメモリに連絡先を記録してしまうので、誰の番号もまるで覚えなくなった。
メモや電話帳、連絡帳などで電話番号を管理することもない。
ましていちいち特定の人の番号を入力することは考えがたい。
「夜更けの電話あなたでしょ」
携帯電話やナンバーディスプレイ対応の固定電話では、こんな風情はない。
あなたでしょ、ではなく、確実にあなたであるか否かが表示されて客観的に判定できる。


電話ひとつかけるにしても、細かな幾多の手続きや障害がある。
こうした風情や気分を、前提を共有しない世代にうまく伝えることは可能だろうか。
古典の授業のようにまとめて説明するのも無粋な気がする。
もののあはれと同列に黒電話が並ぶのも何かおかしい。
おかしいと思うのは、私が昭和の人間だからだろうか。
レコードに触れたことがない私でも「針が下りる瞬間」を理解できるように、
なんだかそういうものなんだろうなと分かるものだろうか。
まだ登場人物が生きている、半端に昔の話。
どこまで断絶なく、説明なく、共有できているのだろうか。

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