一文字の重み

このところ何故か化学がらみの仕事が多い。
高校の頃の得意科目は化学だったのだが、翻訳となると他分野より大変だ。
当然ながら化学物質名も全て漢字なので神経を使う。


ただでさえ中国語は漢字しかなく似通った字形の文字が多いうえ、名詞に文脈はない
前後の語彙から推定して埋めることがほぼ許されないのだ。
ことに表側など物質名の羅列となるど、訳出しても真偽に自信が持てないことすらある。
と言うのは、原文(原稿)が間違っている可能性を自前の論理で排除しきれないからだ。
例えば日本語でもエタノールとメタノールは先頭の一文字しか違わない。
原稿の作者がローマ字入力で「m」を打ちそびれていないとも限らない怖さがある。
エチル基でもメチル基でも成立する化合物の名称だと断定のしようがないのだ。
まして中国語では全ての元素が一文字で表記される。
マグネシウムとストロンチウムが一文字違いだと言ってこの怖さが伝わるだろうか。


原稿が上書きできるWordファイルの場合は全て正しいものとして割り切ることもできる。
問題なのは元原稿が文字ではなく画像のPDFだった場合。
編集用Wordファイルを支給される場合も最近ままあるのだが、これが実は罠なのだ。
肝心の物質名が間違っていることが多々ある。
元原稿に照らして一文字ずつ確かめるほかないのだが、原稿画質が悪いとお手上げである。
故に、諾否の判断は専ら原稿の美しさにかかっていると言っていい。
前工程のしわ寄せが来る仕事とはこういうことなのだ。

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