字義ではない文意

技術的内容を連絡する通信文の最後に「商祺」とある。
直訳すれば「商売興隆」なのだが、さてどう訳したものか。
日本語の「敬具」とは少し趣が違う。


先日「best regards」が書いてあったらどうするかと話題にしてみた。
「訳さないよ、意味ないもの」
それもまた一つの正解だろうとは思う。
ただし語学に暗い人ほどあったはずの文字がないと不安になるので要注意だ。
訳語を充てない場合、その旨を丁寧に申し送る必要がある。
もう一つの選択肢として、同じ意味ではなく同じ機能を持つ言葉というのもある。
中国語は翻訳会社の担当者にさえろくに理解してもらえないので私は専らこちらだ。
「商祺」は結語より手前に置かれているので、挨拶に丁寧さを込める意図が伺われる。
意味あいの似通った言葉を重ねて使う強調表現が中国語ではことに多い。
反して日本語では意味の重複がむしろ嫌われている。
(飽くまで場合によるが)
こうした場合、似たようなケースでの日本語表現は普通どうなのかに立ち返る。
例えば「敬具」の前にもう一言が入るとすれば何かという話だ。
「末筆ながら」云々が該当するだろう。
かつ、もとの文字数が少ないので、できるだけ短い表現を探す。
埋めるのも、短くするのも、読者に不安感を与えないための配慮だ。
恐らくこの芸当は機械にはできない。
夥しい統計の果てに辿り着くことはあるかもしれないが。
また、語学力に秀でているだけの人にもできない。
学校の試験問題であれば「商祺」は「商売興隆」で正解なので、それ以上は考えまい。
アタマではなくココロの仕事だと私は認識しているのだが、偏っているだろうか。
原文の当該箇所はたった2文字で、専門性もない。
しかし、故に難しいし、全体の印象を大きく左右する部分であると思う。

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