お体に優しい絶景

某社の広告を見て「絶景が優しい道理などあるか」と思っていた。
しかし無関係の定期観光バスでそれに近い経験をして失笑。

礼文島と利尻島を母と旅してきた。


稚内から礼文島への移動が早朝のフェリーで自由席という緊張。
指定席は早々に完売していたので早くから並ぶしかなかった。
諸々の設定時刻と所要時間から決めた起床は4時半。
観光するより前に消耗してしまわないかと心配だった。
幸い窓口が空いていたので余裕を持って乗船でき一安心。
定期観光バスの乗車券も買っておくことができた。

礼文島に着いて最初に探したのはエレベーターだった。
膝に不安があると上り階段より下りのほうが怖いらしい。
下船した人々はぞろぞろと階段に向かう。
ふと振り返るとエレベーターに待ち客はいなかった。
これ幸いと二人で降りると、施設の出口はすぐだった。
しかも定期観光バスの待機場所に近く、すぐ乗車できた。
「自由席なので2階のいい席からお取りくださーい」
車内は階段なので母に確認したが大丈夫だという。
そこでありついたのが階段の際の席だった。
階段室のおかげで斜め前が見通せる。
「首をひねらず外が見えていい」と母は笑った。
車窓からの観光もなかなかのものだった。
好天に恵まれ、下車観光の足元も問題なし。
さほど花々には出会わなかったが、海が美しかった。
沖縄の海ともまるで違う、独特の青。

港に戻って昼食を摂ると、利尻行きの船には待たされた。
時間には余裕があったのだが、気分に余裕がない。
何団体も塊で待機列に放り込まれるとやはり気が焦る。
しかも朝の稚内と違って案内放送がなかった。
並んでいると、他の乗客の会話が耳に入る。
「もう今しかないかなと思いましてね」
「私も体力がそろそろ」
「こっちは膝ですわ」
男女を問わず母と似たようなことを言っている。
自分より若い乗客は添乗員ぐらいしかいなかった。
若い人たちはトレッキングの季節に多いのだろうか。

潮風を浴びながら1時間ほどで利尻島に到着。
ホテルの人が玄関まで迎えに来てくれていた。
同じ便で到着した宿泊客は他にいないという。
のんびりした気分で移動できた。
せっかくなのでとホテル近くの公園を散策。
20度もないぐらいだったが涼しい程度に感じた。
僥倖だったのはその後。
ホテルに戻ったところで花壇の植栽に目が行った。
建物側を見ると花壇にはない花の鉢もある。
母が写真を撮っていると管理者らしき人が現れた。
鉢植えはフロントに運んで飾るものだという。
「ここのほうがよく見えますよ」
邪魔にするどころか花の名札をこちらに向けてくれた。
礼文島と利尻島の固有種ばかり。
それぞれの植生なども親切に説明してくれた。

翌朝は主目的とも言える花ガイドツアー。
参加者は全員で6人。
ガイドさんの運転で姫沼の原生林へ。
「こうした森では切り株を見るんです」
朽ちた大木を養分に育つ新芽たち。
国立公園なので倒木たりとも運び出せないという。
遊歩道への危険のない方向に倒しておくだけ。
「大きな木が朽ちて、倒れて、日が差します」
「自然の世代交替を邪魔しちゃいけない」
「枯れた木を撤去してしまうと、クマゲラが住めない」
「お花」よりも「森」の説明のほうが熱かった。

期待ほどの花盛りではなかったが、楽しむことはできた。
むしろ楽しめる余裕があっただけ幸いだったのだろう。
有名なレブンアツモリソウは花期が早く短い。
旅行中はエゾカンゾウとハマナスの時季だった。
どちらも知らない花ではないが、それでも。

あとは利尻島の港で母が買った種がどう育つか。

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