稀少動物インドニシキヘビの皮を張った胡弓の持ち出しには農林局の何がしかの証明が要るらしい。
買った時その説明を受けたのだが「まだ喋れないから」とばかり今日まで行っていなかった。
農林局の事務所は日本領事館より更に奥まったところにあるので交通も不便である。
タクシーを拾うと懐が大打撃を受けるのでバスで行こうと思い、しばらく地図とにらめっこ。
バスで行くには市街地を十分ほど歩かねばならない。どうせなら寒くない方が得か?
今日は幸い陽射しがあってぬくいので、寒くならないうちに行かねばと思い立って出かけたはいいが…..。
手持の地図には農林局どころか地区の範囲すらまともに書いていない。
最初はそれが心配だったが、何のことはない。バス停から見えるところに農林局があるではないか。
但し見えるだけで近いとは言えないのが本当のところ。何かの工事中で道なき道を歩くはめに。
こわれものの楽器を抱え、”命の次に”大事なパスポートまで持って、何が哀しくてこんな田舎道を!
しかも当然のことながら目立つ荷物を抱えているのでやたらと通行人の好奇の目を浴びる。
かれこれ出発から二時間ほどで農林局に到着。警備員らしきおっちゃんに呼び止められる。
農林局そのものの正面からは目的地「野生動物保護処」には入れないという。
「この建物の背面に回れ」と教えてもらったので軒下の道を二分ほど歩いてみた。
すると豪華なプレハブよろしい白塗りの小さな部屋がぽつねんと置いてあり、内外に人がいる。
私の姿を認めるなり戸口のおばさんが「どうぞ中へ」と愛想よく勧めてくれた。
いざ、入る。ほぼ全員に「歓迎、歓迎」と言われ不思議な気分。でも感じはいい。
大きな事務机の前のおばさんが「きっと日本からのお客さんね、多いんですよ」と椅子を引いてくれた。
郊外にそぐわず割と綺麗な標準語だったので苦にすることもなく受答えができたが、
ちゃんと日本語要員もいたので更にびっくり。何ていたれりつくせりな役所なんだ!
差し出された書類に指示どおり名前と利用空港を書きこんだところで帰国日を質問される。
来年の一月末だと答えると、おばさんは「じゃあ駄目」と苦笑しながら書類をとりあげた。
理由を聞き出すのにやや暇をかいたが、出国の三日前からしか証明手続は受けつけないとのこと。
寒くなってから来るのは確かに億劫だが、ここにならいいかとおとなしく引き下がる。