必要十分の温泉

温泉露天風呂がある銭湯に行ってきた。
宿でもなくスーパー銭湯でもなく、ただの住宅地に佇む銭湯である。
源泉掛け流しながら料金は銭湯そのものという穴場だった。


立地のせいか、利用客は近所の人ばかりらしい。
知り合い同士でしか交わされないような会話ばかりが耳に入った。
かかり湯を頂戴した時点では露天風呂が混んでいたものの、ほどなく無人に。
お年寄りが長湯するには熱いのだろう。
見たところ、昭和生まれは私だけのようだった。
つかまり歩きをする人あり、そういう人の手を取って支える人あり。
気分転換や現実逃避のための温泉ではなく、現実を生き続ける人のための湯だと感じた。


弱アルカリ性の温泉は実測値43度。
5人も入れば満員ぐらいの石風呂だったが、たまたま独り占めできたので快適だった。
内湯には利用客が多いので鼻歌をとはいかなかったものの、囲いは竹垣で感じがよい。
これ以上のものを望むなら「温泉旅行」が必要なのだろう。
源泉を引いた内湯には電気風呂なるものもあった。
ちょっと触っただけではぴりっとする程度の電流なのだが、長居は不可能。
段差に腰掛けていると、手が勝手に拳を作ってしまう。
高さが変わったらどうなるのだろうと中腰になってみると、肩さえすぼまる感覚だった。
禁忌症以外の注意書きがないのは本能的に無理ができない証左なのだろうか。
何に効くのか説明がないにもかかわらず、かなりの盛況だった。
皆さん経験的に効能をご存じなのか、それとも私のような好奇心が…とは違うか。

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