不思議な街

お恥ずかしい話、とある案件の受注まで認識していなかった中華圏がある。
否、中華圏と断定してはやはり失礼なのだ。
唯一の公用語ではないが中国語が十分に流通している国、シンガポール。
どれほど使われていてどこまで通じるのか知りたくて、行ってしまった。


公式情報によると人口比率は中国系が74.2%、マレー系が13.4%、インド系が9.2%。
さらに人口の20%を外国人が占めることもあり、公共標識はほぼ英語である。
市内を走る鉄道SMRTの路線図も英語だが、各駅の駅名表示には中国語も見られた。
乗車マナーなどは中国語ともう一つの言語だけだったのが面白い。
しかし類似内容のポスターは英語。
車内で聞こえてくる会話は何言語かすら分からないほど多様だった。
駅の窓口でSuicaのようなカードを購入したときは英語で応対してもらえた。
空港の駅だったせいもあるのだろうか。
国立蘭園、フナンデジタルモール、街角の飲食店などでは中国語だった。
蘭園(国立植物園)の看板には日本語表記の案内も。
外国人が多い土地柄のせいなのか、誰も日本人かどうかなど気にしていない様子。
これまで足を運んだことがある中華圏とはだいぶ違うという印象を受けた。
他国ではよくも悪くも何かしら違う扱いを受けたものである。
意思疎通が出来て用が足せれば何族でも何語でもかまわない。
理屈で言えば当然かもしれないが、現実にそういう空気を浴びたのは初めてだ。
そしてその意思疎通のためか、当地の中国語は聞いて困るような訛りがなかった。
元々が福建省や広東省など互いに別の言語だったための「共通語」。
それでも通じない人には英語で話せば問題はないといった感じだった。
恐らく中国語系以外の言語でもそういうことになっているのだろう。
シングリッシュと呼ばれる独特な英語も実際に耳にして困ることはなかった。
どうも一部の語法が中国語由来のようだ。
なので一瞬はっとしても「ああ、それか」で普通に理解できてしまう。
「正しい」英語だけ半端に身につけている人にはつらいのかもしれない。
否、気にするからつらいだけなのでは。
現代史を繙くと、シンガポールの人々が日本を良く思わなくてもおかしくはない。
それでもわざわざ「あんた日本人だな」云々と絡まれることはなかった。
逆に、ことさら両国の友好がどうこうという態度も取らない。
恐らく含むものはどこかにあるのだろうが、この状態が一番ありがたいと感じた。
現に迷惑かけてなければいいじゃない、といった感じの洗練。
そういう割り切りがなければ多民族国家ではやっていられないのかもしれないが。

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