領分

海外の翻訳会社は、取引のある限り、中文和訳しか発注してこない。
逆方向は中国語ネイティブに訳させたほうがよいとの判断だろう。
それが一案件の途中から覆り奇妙な事態に陥った。


ものはメーカー同士の売買基本契約書。
翻訳の依頼主が同契約の売手側当事者であることが途中で判明した。
依頼主(B社とする)が香港の翻訳会社(C社とする)を通じて質問をしてきたのだ。
問題の契約書があまりにも買手(A社とする)に有利すぎるが誤訳ではないのかと。
質問文が日本語だったためか、C社は「対応して」とだけ言い添えて転送してきた。
素直に受け取ってB社に指摘された箇所の原文と訳文を見直してみる。
明らかに誤訳ではない。
むしろB社の言うように「訳出」したら明らかな逸脱となり誤訳どころでなくなる。
和訳の時点で、あまりにもA社が有利すぎるというのは感じていた。
いかんせん、翻訳業務そのものの発注元がA社なのかB社なのか情報がない。
原文に書いてあるままを訳出する作業そのものには問題なかったのだが。
もしB社からの依頼だと分かっていたら「ご注進」したかもしれないひどさなのだ。
B社は「もし誤訳でないなら、内容がひどいのでA社に修正を要求する」と言う。
それは契約交渉として至極まっとうな判断だろう。
ところが、そこに使う文面の修正案を出せと要求してきたので話がおかしくなった。
B社の望む(伝えたい)内容を中国語にしたい、という新規別案件ではないのか?
(和文の)誤訳の修正であれば品質保証として無償対応すべき理由もある。
しかし実質的に求められているのは原文の「修正」という未曾有の事態。
ここでC社に「和文中訳を別途発注せよ」と突き返すのが筋だっただろうか。
否、そもそもそういう判断をするのはC社の仕事では。
C社との付き合いや諸々の条件を考えた結果、「修正案」は出すことにした。
・新規訳出まで無償対応すべき筋はない
・自分とC社は和訳でしか取引関係を結んでいない
・自分の専門は飽くまで和訳。C社として厳密にチェックしてほしい
・今回は特例として対応するが業務分担を整理してほしい
とは申し伝えてみたものの、はてさて拙い英語でどこまで分かってもらえたことやら。

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