拾う神あり

懐かしい声を聞いた。


大型案件が立て続けに縮小あり延期ありで混乱ばかり続いていたところ。
「声は聞きたかったんだけど無意味に電話するのも悪いでしょ」と発注の打診を頂いた。
安心して「一緒に」仕事のできる取引先の一社で、たまに社長直々の電話がある。
明るく力ある声を耳にするだけで励まされるが、今回は「我慢なさいよ」と一喝された。
市況が芳しくないのは個人的なものではなく、中日訳そのものがそんな空気らしい。
タイの会社が中国人を使った和訳を日本企業に売り込む傾向もあるのだとか。
「で、うちはそんな価格競争には乗れないから、…まあお仕事も減りはするけど」
「それでも和訳は日本人のうるさいのが見るんだから、品質は落とせないでしょ」
「落とさないって言ってもうちら(会社)はまともな人に残ってもらう以外ないの」
「人がする仕事なんだからちゃんと報いないと」
「うちの取り分を削ってでもね」
と、ここまでが時候の挨拶。
案件の説明そのものは1分もかからなかった。
合理的な条件を提示されたので快諾。
「今でこそ仕事が少なくても、変な仕事に行ってもらっちゃ困るから」
「最後にはまともな翻訳者さんが残るんだから、残るんだよ、残ってよね」
よほど落ち込んでいるように取られたのだろうか。
最後にまた「我慢してよ」と念を押されたので、
「我慢していられるうちに次のお仕事を下さい」と思わず言い返してしまった。

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