手の届かぬところで

「品質に気をつけてください」と言い放つ翻訳会社がある。
しかしそこに具体的な指示はない。


その会社からとある案件の参考資料として過去の原文と訳文が送られてきた。
翻訳会社が管理している過去の訳文である以上、客先への納品物だったと思われる。
そのうちの1ファイルがプロの仕事とは呼べない出来だった。
・訳語に揺れがある
 長い文書だったので複数の翻訳者に発注したのであろう。
 それにしても、工程の名称が箇所によって異なるべき合理性はない。
・専門用語以外の名詞がおかしい
 地名や社名の一部が強引に訳されている。
・単位記号の表記がおかしい
 例えば圧力の単位キロパスカルがKpaとなっていた。
 本来kPaが正しい。
 恐らく機械的にスペルチェックか自動校正を適用してそのままだったのだろう。
このうち、少なくとも単位記号の表記については中国語の知識や語学力と無関係だ。
技術分野の翻訳に関わるチェッカーであれば誰でも分かって当然ではないか。
それこそ何らかのツールを用意して機械的に修正することも不可能ではない。
納品物の品質がこれで、高い料金を頂ける道理はない。
翻訳会社が客先に請求する料金はせいぜい案件ごとに確定するのだろう。
「半分を高い下請に発注しますので割り増しでお願いします」とは言えまい。
だとすると、客先は低い期待値に見合う料金でもって発注するはずだ。
半分が下手に見えることはあっても半分が上手に見えるということは普通ない。
不安定で読みづらい、として全体的に評価は下がるだろう。
憶測で批判を繰り広げる趣味はないが、どうにも暗澹たる気分になった。
上記のとおり料金が確定するとなると、自分の取り分を増やせる余地も知れている。
いくら自分が努力しても、この会社に対して今以上はという気がしてきた。
それでも切れない、干されたくない立場の弱さよ。

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