母が車を手放し免許を返納した。
最寄りバス停すら坂を上って徒歩20分の田舎で。
視力の限界に恐怖を感じるようになったのでは致し方ない。免許返納の知らせを受けて半月後に帰省した。
様子を見に、などという殊勝なものではない。
父の命日には帰省することになっているからだ。
兄が空港まで迎えに来てくれたので不便はなかった。

車中「で、お母さんどうなの」と訊くと「全然」。
兄は避暑を兼ねて夏休みを実家で過ごしていた。
そのタイミングで母は免許を返納し、車を手放した。
夏休み終盤にもろもろの買い置きをしたそうだ。
「流石に困るにはまだ早いでしょ」とのこと。

実家に着いてみると、確かに変わったところはなかった。
それこそ車が減っただけだった。
低脂肪乳も3人前は余裕で残っていた。
前日に巡回スーパーで買ったものだそうだ。
「巡回スーパーだと高くてねぇ」
地元スーパーの店頭価格よりはずっと高い。コンビニ並みだ。
加えて送料が1品20円かかるとのこと。
ネットスーパーとはだいぶ異なる様相だった。
「自宅の近辺で」商品を「現物から選べる」が高い。
「タクシーで買いに行くより(総額で)ましでしょ」
「タクシーを呼ぶ手間もかからないし」といった感じだ。
欲しい商品を伝えておくと次回の巡回時に持ってくる。
巡回は週2回で、キャンセルすることもできる。

ネットスーパーの使い方を教えようかと思ったが保留した。
「店頭と同じ価格」で「サイトで選び」、送料は「配送1件ごと」。
サイトで選んで決済に進むというのが、実は心配だった。
自分でネットスーパーを使っていて決済に失敗した経験があるからだ。
ユーザーの操作に非がなくとも、決済に失敗するケースはある。
3Dセキュアの認証失敗や、成功しても承認が下りないエラー。
自分なら決済カードを変えて再試行できるが、母には無理だ。
決済エラーは初めて遭遇したときパニックになりかねない。
そもそも母はクレジットカードを1枚しか持っていない。
心細さが募る時点で日常の支援としては失格なのだ。

放置する意図ではないが、当面このまま過ごしてもらうことにした。
実は「このまま」には兄の帰省が含まれる。
関東在住の兄が月2回は帰省するので、「好きなもの」はそのときに買う。
「足の早いもの」だけ巡回スーパーで買って済ませるという算段だ。
正直、兄に負担なのではと気になる。
「おっかさんが気にならないことはないけど、俺の都合でも帰ってるから」
気にするなと笑ってはくれるのだが。

冷蔵庫には日本酒が何本も冷やしてあった。
それだけ兄が帰省する(と母が期待している)証左だ。

彼岸を過ぎて涼しくなれば、片道15分コンビニにも歩けるだろう。
何とかなりそうかな、何とかしてね。
……やはり自分は薄情な気がする。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です