PROJECT Tokyo 2010第三講 翻訳会社の作業の流れと翻訳者に期待すること

13:30-15:00の講義は、 (株)東輪堂の香村美弥子さんによる、翻訳会社の仕事概要について。
翻訳会社での勤務経験がないこともあり、個人的には本日の大本命。
講師の方は翻訳会社の社員ながら、フリーランス翻訳者のご経験あり。
そのせいか、かなり翻訳者に同情的な配慮や仕事の手配をしていらっしゃるのが随所で光っていた。


東輪堂が新規登録者をスカウトするのは、特需が出たとき、予備の両方。
予備でスカウトされた場合は実際の案件発注に結びつくのが往々にして遅くなる。
と言うのは、想像に難くないことながら、つきあいの深い順から発注することになるためだ。
ちなみに、この「つきあい」には年賀状や贈答品は含まないとのこと。
ただ、東輪堂のほうから声がかかったら、仕事の脈はある。
日英ではご本人の経験上、JAT〉ATA〉Prozの順で候補者の質を信頼しているそうだ。
希望は経験2年以上。未経験でも自言語に見るべきものがあれば採用。
主に英日登録希望者の日本人の場合は日本語、訳文だけでなくメールの印象も影響。
トライアルでは、原文の意図を把握する精度、訳文の読みやすさを重視とのこと。
用語を調査する、正しく使うというあたりは当然と見なしているようだ。
トライアル合格者でも、最初の本番がひどいときはフィードバックしない。
脈ありの場合のみ、現実的に改善可能な点のみ具体的に赤入れして返す。
翻訳者の選定は分野×コスト。
会社から見たコストには校正の工数を含むため、報酬額が安ければよい訳ではない。
直しが少なくて済む翻訳者には、高めに支払っても割安になる場合が出てくるのだという。


東輪堂の体制として、大型案件ではコーディネーターの上位にエディターを配備する。
エディターの役割は、主にDTPオペレータなどとの連絡。
案件の規模に関わらず、チェッカー(校正担当者)は必ずいる。
東輪堂のチェッカーは自言語しか上書きしない。修正を促すコメントのみ翻訳者に返す。
社内翻訳者と軋轢を生じた経験から、他言語の赤入れはしないのだそうだ。
チェッカーは未熟なほど(手加減ができないため)赤入れしたがるとのこと。
自分が働いているんだという主張が出てしまっているのだろうと邪推。
予算が少ないとき、翻訳者の報酬を削らない主義のため、校正の工数を削ることになる。
その場合、逆の意味になったり数字が狂ったりしていないかを重点的に見るとのこと。
校正の工数に実際どのぐらいを見込んでいるのかという質疑応答あり。
翻訳納期1日のとき校正は半日と見積もるが、安全を見込むと待ってもらう期間は3日。


不況になってから相見積もりを取られる頻度が上がったそうだ。
客先納期に余裕がない場合は翻訳者の予定を押さえてから見積を提示するのに失注することも。
いざ原稿支給の直前となってからキャンセルされることもしばしば。
(5件も連続したことがあるというのだから、翻訳会社も大変だ)


なし崩し的に質疑応答。
Q:チェッカーとして採用した人物を翻訳者に育てるか?逆の場合はあるか?
A:翻訳がうまい人だからと言ってチェックがうまいとは限らない。
必要な資質が違うので、少なくとも東輪堂では下積みとして校正をさせることはない。
Q:おかしな内容を含む用語集が出てくるのはどうして?
A:客先から渡されたものを翻訳者に丸投げしている場合、えてしてそうなる。
Q:報酬額に合わせて訳文の質を下げるなんて、翻訳者にはできない。どうしたらいいの?
A:存外に難易度や負荷の高い内容だった場合は翻訳会社に交渉してみること。
即座に報われなくとも、次回以降に色を付けてもらえる場合あり。


翻訳会社が翻訳者に望むことは、至って当たり前のことだった。
・校正の手間がかからない訳文を提出すること
・リピート発注を呼び込む、客先に喜ばれる訳出をすること

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