復元作業

ふと胡弓が弾きたくなったので取り出すと、高音弦が切れていた。
替えの弦は買ってあるので張り替えるか、と気楽に構えていたのがそもそもの間違い。
自分の不器用さと迂闊さをすっかり忘れていた。


まず、古い弦が外せない。
共鳴胴の下端でネジ止めされているのだが、このネジが難敵だった。
軟らかくて半端に小さな木ネジ。
金色なので真鍮かと甘く見ていたらそこは中国製。
精密ドライバーで緩めようとするとドライバーが傷みそうなトルクで締めてあるのに。
普通の細身ドライバーで回したら半周ほどで目皿が歪んでしまった。
やみくもに力をかけていたわけではないのだが、どうも加減がうまく掴めない。
どうにかネジを外せたと思ったら、今度は弦が溝から抜けず、引っかかった親指の爪を破損。
致し方なく家人を呼ぶと「やり方がまずいんだよ」と苦笑しながら外してくれた。


低音弦と高音弦の間に弓を通す必要があるので、作業には自ずと順序がある。
低音弦を固定→弓を通す→高音弦を固定、としなければならない。
ところが、高音弦を先に仮止めしてしまっていた。
と言うのは、無事だった低音弦を見本に高音弦の張り直しをしたからだ。
仮止めを外したところで、押さえる力を失った海綿と駒が落下。
弦を二本とも締めないとどちらも固定できない。
気を取り直して新しい低音弦を張り、仮止めして弓を通した。
高音弦を張り直して止めようとしたところで、弓が上下逆だったことに気づく。
糸巻きから弦を抜くのも(少なくとも私には)容易でない。
まして、巻き癖のついた弦を通し直すのはより難しい作業だった。


ともあれ、どうにか形になったので海綿と駒の位置を調整して増し締め。
固定ついでに調弦もしたが、ここは何故か感が残っていて意外と順調にいった。
最後に残った問題が実に情けない。
まともな音が出せないのだ。
十年も弾いてなかったのだから当然と言えば当然だが、ゼロからやり直しだ。
しかもあいにく思っていたより音が大きく、網戸でいる期間は遠慮せざるを得ない。
弱音器も持っているので取り付けたが、期待したほど静かにならなかった。
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やっと形だけでも復元できたのに、ままならないものだ。
欠けた部分を切り詰めてより不器用になった親指を眺め、ため息ひとつ。

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