初心者向けの着付け講座に顔を出してみた。
和服には若い頃から興味があったので、しばらく習うきっかけを探していたのだ。
慶事で訪問着を着る予定にも刺激はされたものの、あいにく講義日程が間に合わない。
ほぼ純粋な道楽同然ではあるが、何事もまずは経験。
本格的な着付け教室に通うほど時間も思い入れもないので、体験講座だけにした。
体験講座とは言え一回では完結しない。
用語や小物類の説明と肌着の着装で一回、着物と帯で一回、通して復習が一回。
これだけの手間暇をかけて普段着の着装までたどり着けるか否かというところである。
日本の民族衣装は本当にいつからかくも複雑なのだろうか。
一切の配付資料なく板書だけで駆け足気味の説明に約二十分。
肌着に半襟を通す作業で約十分。
「さて、実技に入りますよ。まずは足袋を履きます」
その足袋が履けない。
「あらあら、足袋だけで今日が終わってしまいそうですね」
本気でそれが心配になるほど手間取った。
下から順に「こはぜ」(鍵ホックのようなもの)を止めていくだけなのだが、うまくできない。
二段目をかけると一段目が外れ、三段目に進むと二段目が…。
「下から順に止めるんですよ?」
分かっているができないのだ。
手を割れと言われても、タックを取れと言われても、同様について行けない感じだった。
頭では理解できているつもりでも、手が指示どおりに動いてくれない。
いや、動きが指示どおりなのかどうか体感で判断できないのだ。
この違和感は、運動会か何かでフォークダンスを習った時の困惑に似ている。
しかし意外にも、通しで二度やってみると先生からお褒めの言葉が。
「さっきよりずっと綺麗ですよ。様になってるじゃないですか」
許容範囲には入れたのかと安堵したものの、姿見を覗くと何かがおかしい。
つんつるてん。
そう言えばそうだった。私は腕が長いのだ。
「あんたは裄が長いからねえ」と母に言われていたのを思い出した。
しかし、よもや腕の長さを恥ずかしく感じる日が来ようとは。
胸にガーゼ、腰にタオルでまだ足りず、腕の長さまでは補整のしようがない。
さほど日本人離れした体格ではないつもりだったのだが、どうしたものか。