一段落ついたので安堵したが、今回の案件は結構ぎりぎりの納期だった。
最初に文字数と納期を打診されたときは問題なかったのだが、受注確定後に条件変更。
「すいません、お伝えしていたのが弊社からお客様への納期でして」
全体日程が繰り上がった時点ではまだよかった。
納期まで中10日で120枚余りという条件だけなら、1日12枚なので特に問題はない。
土曜日は東京に出るため仕事にあてられないが、それでも1日15枚。
ところが後から出てきた分納条件がかなり厳しいものだった。
最初の3日で40枚、次の3日で66枚を分納せよというのだ。
この分量は書類機能のまとまりで分けた数字なので動かせないという。
しかし実質2日で66枚という数字は順当に考えて現実的でない。
頭から6日で106枚にならしてから土曜を差し引いても平均21枚を超える。
その数字が見えた瞬間は血の気が引いたものの、始めなければ進まないのでまず着手。
幸い想定していたより遙かに早く、金曜の時点で最初の40枚分が訳出できた。
どこで何が役に立つか分からないもので、昔取った杵柄が役立ってこの数字なのだ。
と言うのも、今回の案件は某社の品質体系文書一式。
昔々、新卒採用してもらった会社でやっていた仕事の記憶が存分に生かせたのである。
本社分と現地法人分の体系文書を読み込み、訳し、一部改訂したことがあったのだ。
尤も当時は業務上の都合から北米法人の方を向いていたので英日/日英だったが。
あるいは単に同類文書の難易度が低いのかもしれない。
あるいは経歴が生かせる最高の相性だったのかもしれない。
ただ言えるのは、来るべくして来た案件だと信じ切って取り組めたということだけだ。
この案件をこの条件でこなせるのは恐らく自分しかいない。
文脈も表現の雛形も最初から自分の中にある。
逆に、その驕りと戦う日々だった。
客先は自分の古巣とは無関係であるし、ISO規格そのものも最新版なので事情は違う。
確かめるところは確かめ、調べるところは調べることをより意識せねばならなかった。
稼ぎ出した余裕分の時間を次の訳出に投じ、気づけば問題の66枚まで片付いている。
だいぶ遡及修正や表現の再統一などをしたので、まとめて訳した甲斐はあるだろう。
もう一息。
つつがなく監査が進められますように。