上海の翻訳事情(断片)

徹底解剖!中国語翻訳の世界」と題するセミナーを聴講してきた。
聴講者が80名を超える大盛況。
自分が身を置いている業界ながら、初めて知ったことも多く、収穫は期待以上だった。


第一部は中国(上海)通訳・翻訳業界の現状。
上海育成通訳センター校長の王先生が当地の業者や翻訳者について事例などを紹介。

・中国の翻訳会社は専業が少ない。通訳7割:翻訳3割の兼業が主流。
・通訳需要の分布から、通翻会社は北京と上海に集中して分布。
・国営企業系の異業種が翻訳部門を持っていることも。

このあたりの事情は日本にいて窺い知ることのできない貴重な情報だと思う。

一方で

・通訳/翻訳そのものの重要性や意義が認識されていない
・ほぼ学問として扱われていない
・簡単に起業できてしまうため「安かろう悪かろう」が横行

は程度の差こそあれ日本でも似たようなものではないかと感じた。
中国では学者/大学教員の社会的地位が日本よりずっと高い。
大学教授ならプラチナカードどころかブラックカードの与信が下りる。
彼らの「学者としての実績」に翻訳関連の仕事は認められていないのだそうだ。
翻訳を「単なる文字から文字への変換」だとする意識の指摘には衝撃を受けた。
と言うのも、世間だけでなく通翻会社の人間すらそういう認識だというのだ。
「辞書さえ引けば語学力なんて要らない」と考えてしまう専門業者?
そうなると専門性などあるわけもなく、価格競争力だけがものを言うのは必至。
なお、中国語が全く分からない客先ほど「安い業者」を盲信するようだ。
先生の会社が翻訳を担当した案件で、他社の校正結果がひどかったという事例も。
校正の担当者に翻訳能力/語学力があるとは思えない赤字だったとのこと。
しかし何も分からない客先はそちらを信頼していたため苦労して説得した由。
まともに翻訳しようとするほど、専門性もコストも必要となる。
しかし翻訳者がそれに見合うだけの報酬にありつけず、研鑽を積む動機に欠けるという。
講義ならぬ後の交流会で某社担当者から聞いた話では、料金は日本の1/3。
(それでも駐在員夫人などは結構な品質で和訳を請けるという)
日本で生活しながら大陸価格で仕事を取るのはあり得ないと納得した。

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