身を置く世界の実情

「徹底解剖!中国語翻訳の世界」セミナーの第2部はむしろ日本側の状況。
(株)シー・コミュニケーションズの大羽社長が需要から人材採用まで幅広く紹介。
同社は通翻兼業と言えるが、中国語(と日本語)に特化した業態である。


「中国企業と日本企業との契約や商談も英語化が進んでいるのでは?」
よく見聞きする話であるが、比率にしてはほんの一握りだという。
日中双方が英語で話を進めることに自信を持っている場合は限られるとのことだ。
中国語訳の需要については想像の範疇を出なかった。
相当数の日本メディアが中国語版/中国版に進出し、成功事例もある。
一方、和訳需要として面白かったのが、業界動向を把握するためのニュース関連。
中国企業との取引が直接ない会社でも、一大市場の動きは無視できなくなってきた由。
原材料供給が持って行かれるリスクなどを知っておきたいという需要らしい。
翻訳者の採用については同社の例が具体的に紹介された。
中国語の和訳を専業に生計を立てている翻訳者は僅かなのだそうだ。
兼業だろうが地方在住だろうがいい訳文さえ出せばいい訳者、と言われ頷く。
翻訳者に向いている性格、改善を要する性格の例示もあった。
全ての適性を満たしていなくとも、校正担当者が補えれば仕事の質は担保できる由。
言わば単発チームのチームワークで解決する道があると。
いかに適切な組み合わせをするかが翻訳会社の肝であり醍醐味なのだとのことだった。
採用試験の合格率は1割。
「翻訳はすっぴんでもできますが、訳文はきちんとしているのが当然です」
敢えてそう発言させるだけの「訳文」がそれだけ多いということか。
試験の答案を評価する基準は5項目。
優先度が高い順に
①読解力
②正確度、忠実度
③表現力
④単語調査力
⑤丁寧さ
このうち②、④、⑤は努力なり対処なりしようがある。
翻訳学校で教えるのは概ねこの辺りだろう。
ただ、前提となる①と③がやはり大きい。
中国語翻訳は対応分野を絞れないというのは社長の話にもあった。
つまりそれだけ多岐にわたる日中両言語の多読、精読を要するということである。
当然と言えば当然だが、分かっていない応募者もいてこその合格率1割。
中国語訳(の品質管理)の難しさは聞けば聞くほどぞっとした。
当たり前かもしれないが、言葉は生きている。

・中国と台湾で表現が違う
・日本語(カタカナ表記)のように流入概念の受け皿がなく、定訳ができない
・文体、文書そのものに人格が滲むという文化
・新しい中国語が香港近辺から次々に発生し北上

こうした条件の上で商品としての訳文が作成できる気がしない。
まして競合である中国語話者の料金水準は日本の1/3。
「10年以上前の中国語の教科書はすぐにでも捨ててください」
なるほどそういうことだ。
中国語訳の研究は面白かろうが、少なくとも自分にとって商売にはなるまい。
最後に、品質の向上には対価が必要だという話になった。
それを明示し要求していくのは翻訳会社の仕事であろうと。
では翻訳者個々人はと言うと。
「プライドにかけて、安い仕事は取らないでください。それが業界のためです」
見聞きした覚えのある結論に行き着いたが、ある程度の共通認識ということか。
質疑応答も興味深いものだった。

問:質のいい中国語翻訳人材を獲得するには?
答:チェック/評価能力を持つ人材を社内に抱えておくこと。

鶏か卵かという話ではない。
分かりもしないものを管理できるはずはないので、まずは分かる人材が必要。
管理状態にあってこそ、価値を問える翻訳が提供できる。

問:社内で蓄積している用語集を有償でも公開しないか?
問:用語集は依頼元も巻き込んで作成したほうがよいのでは?
答:そこは連盟の出番では?

これが呼びかけだけで終わるか、新しい動きを呼ぶか。

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