JATの自主翻訳・出版に関する講演会を聴講してきた。
著作権の概要と、翻訳書の出版に関連してくる権利についての紹介。
配付資料はなかったが、説明スライドが後日JAT会員には共有されるとのこと。
ともあれ、ひたすら書きためたメモから備忘録をば。
個人的キーワードは「ベルヌ条約」と「同一性保持権」。
ベルヌ条約
第五条(1)著作者は、この条約によつて保護される著作物に関し、その著作物の本国以外の同盟国において、その国の法令が自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享有する。
同条約の加盟国で翻訳書を出す場合、出版先の国/地域の著作権法が適用される。
中国も日本も加盟国のため、中国書籍の日本版には日本の著作権法が適用されるのだ。
(同一性保持権)
著作権法第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
文化庁の説明では「著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利」。
この権利は著作者人格権のため、放棄や譲渡ができない。
よって、ライセンス契約により不行使または行使条件の限定を確認する必要がある。
さもなくば原作者の意にそぐわない訳文が著作権侵害となってしまう。
ちなみに損害賠償請求は通常ライセンス料相当額(数十万円)となるそうだ。
直接の賠償より問題なのは複製権(二十一条)による出版の差し止めや訂正の要求。
実際には財産権である翻案権(第二十七条)の譲渡契約を結ぶことになる。
(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
このとき、第二十八条により原作者が持っている訳書の出版権も譲り受ける。
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
なお、交渉すべき著作者が見つからないときは文化庁長官の裁定を受ける。
使用料額に相当する補償金を供託すれば適法となるが、手続きは煩雑とのこと。
かくして訳書が適法に出せると、今度は自分にも著作権が発生する。
二次的著作物(ここでは訳書)の権利は保護されるため
・翻訳を無許諾で使われた場合、著作権侵害を主張できる。
・原作者が複製権を乱用した場合、侵害を主張できる。
とまあ考えるほど難しくなりそうな権利関係ではあるが、助け船も出ている。
(社)全国出版協会が関連する契約書のひな形を公開しているのだ。
それでも実務的にはエージェンシーなどを通して話をすることにはなりそうだが…。