昨年から訳していた本が『年画 民俗画に見る人々の願い』として形になった。
この本がただ中国語を日本語に直したものでないことは伝わるだろうか。
何しろ根底にあるものが中国文化なだけに、背景事情の説明は原文になかった。
とは言え背景が見えなければ民俗文化を紹介したことにはならない。
「体裁は編集で考えますから、できるだけ詳しくお願いします」
との指示もあり、「明示されなければ分からないこと」の洗い出しに腐心した。
中国人なら知っていること、中国に関わりがあれば分かること、古い人ならば…。
かくして訳稿は注だらけの目に悪い代物になっていた。
そこから版組と何度もの校正を経て形になったのは、もはや自分の力ではない。
原文は版画作品の紹介を旨として書かれている。
書かれていることを歪みなく伝えるのが翻訳だと思っていたが甘かったようだ。
「原文の意図、伝えたかったことを伝えるべし」とは聞くがそれでも足りない。
と言うのも、中国版と日本版では対象読者が違うのだ。
中国版は中国文化の担い手である当地の若者に向けて書かれている。
この本の文脈において外国人は中国文化を担わない。
さりとて無関心に通り過ぎるのではなく、目を留め注意を向けてほしい。
ならば日本版は中国、中国人というものを知るひとつの契機に、ということになる。
特定の作品にのみ込められた個性だけでなく、通底するものも伝えたい。
「違和感からの出会い」を訳出というより注を盛り込む上での指針とした。
とにもかくにもまずはおめでとうございます。
携わった仕事が形になるというのは一つの大きな成果だと思います。
そしてその過程でいかに多くのご苦労があったか…同業者として本当によくわかります。それにこういう文化系・民俗系のものは特段の難しさがあると思います。加えて校正や編集に付随する作業もいろいろあったと思います。
できれば手にとって読んでみようと思っています。
いずれにしろお疲れ様です。
ありがとうございます。文化の比較やうんちくが好きな人には面白い内容かと思います。本文は一般向けながら装丁が美術書ばりなので各地の図書館あたりに広まってくれないかと思っとります。
訳本の刊行、おめでとうございます!
文化の違いってことになると、普通の人には英語圏よりなじみが薄いことが多そうで大変ですよね。古川さんの性格からして、その辺を必要以上なくらいちゃんとやってそうで、苦労が忍ばれます。
機会があったら手にとって、余裕があったら買ってみます^^;
ありがとうございます。文化の違いを見せる本ではありますが、そこから敢えて文化の近さを汲み取ってもらえたらと本のあとがきにも記しました。漢字文化圏だから、お箸の国だからこその共通点も見られますし、絵解き観賞のコツみたいなものがつかめれば「もしやこれも含意が?」と視野が広がって面白いのではと思います。