たかがカットされどカット

転居して1ヶ月、生活の不自由は感じなくなってきた。
恐らく最後であろう課題は美容室の開拓だ。


「いかがなさいますか?」の答えに毎度とても悩む。
レイヤーだのバングだの基本用語は知っているが目指す答えを組み立てられない。
小ぎれいにさえしておければよいのだが、大抵そんな要望は通らない。
では、と若い美女のひしめくヘアカタログなど出されたところで選べるものでもない。
かといって誰でもプロにならばお任せすればいいのかというと、経験上それもない。
二度とモンチッチにはなりたくない。
惨めなほどのないない尽くし。
気に入ってある程度お互いに慣れてくればお任せで好ましい髪型にしてもらえる。
問題は、信頼関係を築けそうな相手が見つかるかだ。
お客の好みだけで評価が決まる美容師という商売もさぞや大変だろう。
まして上述のように要望をうまく伝えられない客も流石に私だけではないはずだ。
カット技巧のみならず、鋏を手に取る以前の所謂カウンセリングも侮れない。
嗜好や生活習慣を聞き出して具体的な髪型に反映させ、その確認を取る過程だ。
大抵この聞き取りがいい加減だと感じたとき仕上がりに満足できることはない。
また、そのときの態度や話しぶりそのものにも好き嫌いがある。
個人的に床屋政談なるものがとても苦手なので、会話は必要最低限にとどめたい。
さりとて無口でも不機嫌そうに仕事をされては雰囲気が悪くなる。
相性と言ってしまうと身も蓋もないが、好きでやっている職人が自分には一番だ。
本筋から離れたところまでの気遣いは要らない。
とは言えおまけだからとシャンプーに手を抜く人とも気が合わない。
カットの成果を買っているようでいて、実は滞在中の快適性も評価しているのだ。
技能職でもあり接客業でもあり、考え出すと頭が下がる。
言わば技能だけで成立している仕事は余分な心配がなくていい。
せいぜい収支の記帳や確定申告ぐらいのものだ。
まあ気楽な商売だよなと目を泳がせていると「肩ガチガチですね」と笑われた。

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