遊び

自分に厳しい、自己評価が低すぎるなどとよく言われる。
社交辞令でなかったら買いかぶりではないかと思う。
素直に自分の時間、自由を享受できていないだけだ。
とはいえその自分をわざわざ貶めたり蔑んだりしているつもりもないのだが。


久々に手持ち仕事がある状態で「遊び」に出かけた。
先週火曜に受注しておきながら作業開始に待ったのかかっていた案件。
担当範囲が削除される見込みと聞いていたので原稿の整理だけにとどめていたのだが、
月曜の朝に本来どおりの内容で進めるよう正式連絡が入った。
所定納期は来週月曜だが、開始遅延分を反映させてくれるよう打診。
A4で50枚を超える規模なので、どのみちすぐには終わらない。
いつもなら、終わるまでひたすら仕事漬けになっていた。
今回は、開始連絡だけで待たされるのが厭になったので、エステの予約を入れていたのだ。
当日にキャンセルすると勿体ないので、適当なところで作業を中断し外出した次第。


地下鉄の一駅分だけ歩き、目新しい町並みを眺めると存外いい気分だった。
若い人から元気をもらおうなどと思っていたわけではないが、結果としてそんな感じに。
ふと、このタイミングで来てよかったと思った。
息抜きは疲れ切る前に挟むのが正しいような気がする。
今回はせいぜい一日半の実働で、疲れと言っても知れているのだが。
リンパを流してもらいすっきりしたせいか、帰りは暑さも気にならず軽い足取りだった。


このところ、仕事と暇つぶしで日を送っていたことに気づく。
休憩も娯楽も、予定の楽しみもなかった。
決して多忙だからではない。つぶすような暇はあったのだから。
活力の低下を感じていた原因は、この張り合いのなさにあったのかもしれない。
全く贅沢な話なのだが。
この年(年齢というよりフリー歴)にもなってまだ、時間の使い方が下手で困っている。
何か予定を立てて自分に予約を入れてしまうという方法も有効かと思った。
いかんせん、仕事ぐらいしかやりたいことがないのも事実なのだが。
息抜きに誘ってくださる方があれば、今後ほぼ無条件で歓迎するつもりではいる。

毛引き

「エリカラつけちゃうよ」と言われ、はっとした。
エリザベスカラー。毛引きや自咬症などの自傷行為を邪魔するための道具である。
鳥類だけでなく犬猫にも使われているらしい。
ただ、発言の主がつけると言っている対象はこまちよではない。私だった。
物理的には全く何もしていなかったのだが、発言がよほど痛々しかったらしい。
半分は分かっていて垂れ流していたものの、やはり周囲に不快だったろうか。


毛引きというのは、鳥が自ら羽毛を抜いてしまうことと解釈している。
一年以上前、それで動物病院のお世話になった。
羽毛が減って驚いたからではなく、出血が見られたので慌てて連れて行ったのだ。
筆毛と呼ばれる未成熟な羽毛は途中で折れると出血を起こす。
鉗子で問題の筆毛を抜き、止血してもらって事なきを得た。
その時の先生の言葉が今も忘れられない。


「最初の原因は分かりません。病的なものではないので心理的な何かでしょうか。
 分かればその原因を取り除いてあげるだけで自然と治るものですが……、
 これね、一度やり出すと気にしちゃうんですよ。
 抜いた羽が生え直してくるのを気にし出すと、何度でも抜きますね。
 止めるには、ですか?
 エリザベスカラーをつけるだけではやっぱり気にすると思うので……、
 苛立っているんでしょうから、頭がぼうっとする薬を出します。
 ただの毛引きなら命に関わることもないので、様子見でもかまいませんが
 どうしますか?」


頭がぼうっとする薬と聞いて、こまちよが気の毒というより自分が悲しくなった。
いらいらするなら、ぼうっとさせてしまえ。
そうとしか受け取れず、様子見を決め込むことにした。
結果、こまちよは定期的に毛引きを繰り返している。
しかし心配したほど範囲を広げたりはせず、むしろ少しずつ回復しているようだ。


翻って自分はというと、冒頭の指摘を受けたとおり何かと苛立ってはいる。
何一つ不足のない、客観的には充実した日々を送っているはずなのだが。
恐らくは眠りの質がよくないせいだろうとは思うが、医者に言うほどの症状はどこにもない。
ごく漠然とした不安を吐き出したくなることはままあるものの、たいていは飲み込んでいる。
自覚しているのはたった一度だが、言う相手を間違えたのが悔やまれてならないからだ。
普通の人は、大人はどうしているのだろうか。