黒川伊保子『女たちはなぜ「口コミ」の魔力にハマるのか」読了。
本を読んでこれほど面白いと思ったことはない。
知識を吸収する快感でもなければ、美しい表現に出会った喜びでもなく、面白さがあった。
書名は誰が付けたのか、あまり内容の本筋とはつながっていないように思う。
乱暴に紹介すると、男性のために女性脳の動きを紹介した本だ。
また、言葉の意味ではなく語感が持つ力についても具体的に述べている。
女性は語感により敏感なので、「口コミ」がよく効くという。
耳にする音ではなく、その手前の、口にする音の力が意外と重要であるらしい。
「さっと片付ける」「ざっと片付ける」の違いなど、言葉の本としても面白かった。
日本語ネイティブであれば習わずとも「何となく」分かる語感を発声法から解説してある。
いちいちそれぞれを覚えたり自分で分析しようという気になったりはしないが、目から鱗だった。
日本語に多い擬音語や擬態語の由来が発話するという行為の身体感覚だったのかとすら思う。
言葉の意味は大脳で処理されるが、語感は小脳で処理されるという指摘も大きかった。
自分の身体感覚に照らして正しいと思える表現も、故なきものではなかったのだ。
無論、和訳の仕事で紡ぎ出す日本語は目的に即しかつ公正なものとしなければならない。
その絶対条件を満たした上で読み手に安心感を与えられるものが語感なのではなかろうか。
より「しっくり来る」表現。
実際に声に出すのは憚られるにしても、訳文の音読イメージは意識するようにしてみたい。