談話と議論とついったー(と部屋とワイシャツと私)

日本人は議論が下手だ、とよく言われる。
「ちゃんとした場」を与えられればそれなりに発言するが、普段はモノを言わないからか。
ついったーは、何気ない会話が広がって、議論やら口論やらに発展することが多い。
どうすべきだというルールがない(成立しない)世界だからそれ自体は構わないのだが。
議論をふっかけたつもりでない発言をつかまえられて論駁されると困惑する。
こうなってしまうと、反論=逆らった、別の話題=逃げた、となり、何をしても逆効果。
しかも相手は自分が感情的になっていることに気づいていない(としか見えない言動ばかりする)。
ついったーから学べること、学びたいことは多いし、その対象としたい人々もたくさんいる。
でも私は家庭教師が欲しいわけでもなければ、坊さんの説教を聞きたいわけでもないのだ。
皆さんにそんな個人的態度をいちいち把握してくれとは思わないが、気づかないのかなぁ。
見えている画面が違うと読める空気も違うのだろうか。
気にしても仕方ないことだけは習得しているので、そっとフォローを外すなど。

オフな一日

東京滞在の最終日。私にしては珍しく、チェックアウト以降にネットを見ることが全くなかった。
メールのやりとりはしていたので、ネットを利用しなかったわけではないが。
時間差で5人もの鳥好きさんと会い、たくさん歓談してきた。


チェックアウト時刻ぎりぎりに宿を出て、待ち合わせ場所である浅草へ。
当初そこで会う予定があったのは2人だったが、もう2人に会えることになった。
浅草に行く用事があるのでお昼でも、と声を掛けてくれたのだ。
群青色の七分袖にキバタン柄の白いTシャツという、実に分かりやすいいでたちが功を奏した。
地下鉄の駅を出るや、「あっ、ふるかわさーん!」と声がかかる。
人なつこい笑顔を浮かべた奥さんが、ついったーでの知り合い。
ご主人もインコ好きとのことだが、どうしても奥さんとばかり話してしまい、ご主人と話す機会はあまりなかった。
ご夫婦は浅草寺の「ほうづき市」に行かれるとのことなので、もう二人には携帯メールで連絡しつつ同行してみることに。
週末と縁日が重なったとは言え、通勤電車のごとき人の群れがひたすら続いており驚いた。
どうにかお参りを済ませ、ご夫婦がほうづき市へ、というところで「駅に着いたよ」メールが。
私はホオズキに用事がないので山門前で待っていることにして、ご夫婦を見送った。


しばらくして、人混みにうなされながら別の鳥好きさんが登場。
「お昼の場所に行っておいていいですよ」とメールが来たので、まずは2人で飲食店を物色。
さてここにするかな、と思ったところで「気分が悪くなったので、おとなしく帰ります」とのメール。
つわり中の奥さんは大変だねぇと話しながら、まずは蕎麦屋に入った。
見知らぬおじいさん達と相席。もう1人がいつ来るかねぇなどと話しつつ蕎麦をすする。
席にありつくまで時間がかかったこともあり、食べ終えて店を出たあたりで「駅に着いたよ」メールが来た。
ちょうどお品書きに店の略地図があったので、撮影して「ここです」とメール。
メールだけでは自信がないのか、しばらくして電話があった…と思ったら目の前に相手が。
落ち着いて話せる喫茶店なり甘味処なりをどれくらい探し歩いたことだろう。
昔ながらの喫茶店で空席を見つけたが、3人で入るには微妙に狭い。
よそに行こうかと諦めていたところ、店内から声がかかった。
小さいテーブルをパズルのように寄せ合わせて席を作ってくれたのだ。
一人が柱と向き合ってしまう配置だったが、座れるだけありがたいと入店。
持って行くと約束していた本を披露すると、その内容が話題の中心になった。
鳥籠の鑑賞、インコ中国画の画法、スズメ中国画の画法。
いずれも私が中国から取り寄せた本なので、物珍しいというのはあったのだろう。
また、写真や図例が豊富な本だったので、特に訳して聞かせる必要もなかった。
2人とも、私とは目の付け所が違っていて、出てきた感想が面白い。
「この作者はコンゴウインコがひいきだよね」
「このスズメ、何があってこんな口なんだろう」
「何だか高いと思ったら、鳥籠なのに象牙?」…などなど。
一方で、出てきたおやつもそれぞれ想像とずれがあり、なかなか盛り上がった。
ミルクかき氷のミルクがかかっていない。ピッチャーに少しだけコーヒーフレッシュが注がれている。
ヨーグルトドリンクがストローで吸えないほどドロドロで味が濃い。
プリンを頼んだら品切れで、半強制的にコーヒーゼリーに変更…などなど。
品物がなかなか出てこないのは苦にならなかった。
むしろ待っている間は堂々と本を広げられる。


ひととおり回覧が終わり、おやつも食べ終えたところで喫茶店から退却。
駅で1人と別れ、2人で上野のこんぱまるへ行った。
大型インコの絶叫にまみれながら、店内の珍しいインコ達をぐるりと見回す。
キキョウインコもかわいいが、サザナミインコも捨てがたい。そしてこの色は云々。
お店の人に頼めば籠から出してもらうこともできたが、情が移りそうなので自粛した。
ふと気づいたら次の待ち合わせが迫っていたので、一足お先にと声を掛けてお店を出る。


浜松町に現れてくれたのは、掛川花鳥園でご一緒したことのある方だった。
花鳥園に行っていたときは、総勢18名という大人数だったこともあってほとんど話せていない。
どんなインコ話をしようかと思っていたのだが、存外お仕事の話が興味深く、そちらにはまってしまった。
インコつながりで知り合った皆さんは確かに職業がばらばらであるが、仕事の話はまずしない。
しかし御法度というわけでもないらしく、尋ねたら「堅い仕事ですよ~」と笑顔で仕事用の名刺をくれた。
仕事内容を聞いてみると、通訳や翻訳の発注側、かつ決裁権限のある方だったのでびっくり。
どういう訳文、態度が「使えない」と判断されるのか教えてもらえて、非常に勉強になった。
幸か不幸か、中国語の需要がありそうな職場ではないようだったが。
意外にも能力より態度のほうが客先に与える印象は強いらしい。
もっとも、きちんと仕事をしようという態度を貫くには、それなりの力も必要な気はするが。


もっとお話を聞きたかったし、結局インコ話がほとんどできなかったのだが、時間切れ。
搭乗時刻まで1時間半を切ってしまったので、手土産を渡して駅で別れた。
いつもなら東京滞在の最終日は空港で時間を余らせている。
PCを託送荷物から取り出し、保安検査場を通ってからカードラウンジでネットを見るのが常だった。
それが今回は、空港に着いたときにはPCを取り出す気も起きないような時間。
そのまま託送を依頼し、貴重品だけ持って保安検査場に進んだ。
手土産と夕食用のパンを買っただけで、もう離陸30分前だった。

素敵な会食

日中はブックフェアの後、三鷹へ行ってお茶の商談をしてきた。
ついに雨が降り出したので駅コンビニで傘を購入。
次の約束は渋谷で夕食なのだが、時間が半端にあって少し困った。
宿に戻ってブックフェアの収穫物を置いてくるのも面倒だし、雨の中それほど歩きたくもない。
いっそ渋谷で降りて時間を潰すか、と思い立ったまではよかった。
会食場所の地図を自分で印刷して持っていたのだが、これが役に立たなかったのだ。
駅徒歩7分のはずの目的地を探すこと70分!
そもそも地図に歩道橋や地下道の記載がなかったため、最寄り出口を間違えたのが運の尽き。
苦労はしたが何とか場所は理解したので、いよいよ?駅前に戻って時間を潰すことにした。
最初はマンガ喫茶にでも入ってだらだらしておこうかと思っていたのだが、ふと献血ルームが視界に入ったのでそちらに変更。
無料で好きなだけ滞在できる清潔な空間!しかも精密な血液検査がついてくる!(本末転倒)
採血後、温かいお茶を飲みつつ、今朝もらってきたガイドブックを読んで休憩。
ほどよい時間になったので、お店にゆっくりと移動した。

お店の入口で出迎えてくれたのは、なんと店員さんではなく待ち合わせの相手。
雨だからとハンドタオルを貸してくれた。
しばらくしてもう一人の待ち合わせ相手も到着し、シェフに呼ばれて予約席へ。
三人とも、品数が少ないコースを注文した。
選択肢はメインの肉か魚、スープの温製か冷製、食後のコーヒーか紅茶か。
面白いほどばらばらになった。
最初に飲み物の注文を聞かれたが、献血直後なのでワインを断念。
私に合わせてくれたのか、二人も飲み物を注文しなかった。
前菜が出るより早く、歓談開始。
一人が英日と独日のフリーランス翻訳者、もう一人が翻訳会社でチェッカーをしている半分フリーランス翻訳者。
その二人が取引関係にあったりと、自己紹介からなかなか面白い展開に。
意外と仕事そのものの話はあまり出なかった。
むしろ、ついったー(の使い方)論の方に花が咲いていたのではと思う。
目にする誤訳や誤字が気になる「職業病」の話でひとしきり盛り上がった。
やっぱり自分だけではないのね、と嬉しい、と感じるのも奇妙なのだが。
三人で一致したのは、「ついったーって嬉しいよね」ということだった。
在宅翻訳者などは職場がないので孤独になりがちだが、ついったーという場のおかげで寂しくはない。
それに、特定の団体に所属する訳ではないので、堅苦しいこともない。
気に入った人のつぶやきを読んで、好きなように返答して、気が向いたものにだけ返事。
そういう行いが普通であり、失礼にならない気楽さ。
でも意外と前向きで志のある人が常連の仲間になっていく。
以前JTFのイベントで出会った人々(一名のみ例外)と比べ、より親近感がある。
お冷やだけで三人がほろ酔い同然の上機嫌というすばらしい会だった。
料理については知識がないので記述できない(苦笑)が、どれもあっさりとして美味しかった。