昔、翻訳学校に通い始めた頃。
中国語で「棒」と言うとかなり太い棒を指すので、「綿棒」を「棉棒」と訳してはいけない、と教わった。
綿棒の太さを反映させると「棉尖」になるのだとかなんとか。
ところが今「棉棒」で検索しても普通に綿棒の商品説明が出る。
つまりは「綿棒」という日本語が輸入されて外来語として定着しているのだ。
#まあ検索結果の上位を占める「棉棒」も日本製なのはご愛嬌
漢字を並べて作られている熟語は漢語だと信じてしまいがちだが、意外と日本語由来のものは多い。
化学用語には特に日本語訳を漢字変換だけして使っている例が多いそうだ。
日本人は横文字の新語をそのままカタカナ表記して使うのが得意なようだが、
お隣の国ではその日本で(昔)作られた漢字表記をそのまま使って語彙を豊かにしているという話。
ダメ出され
某海外翻訳会社からダメ出しをくらった。
・余裕ある納期を提示してやったのに何をそんなに急いでいたわけ?
・お客さんから赤が戻ってきたから、どこが悪いのか考えて
そのメールを見るなり妙に脈が速くなり、急に寒くなってしまった。
悪い予感とかいう感情的なものではない。
客先からのフィードバック(赤字修正)をもらうこと自体が珍しいので緊張したせいだろう。
ともあれ、反省すべきものは反省しないと。
その赤字修正を見るなり、悲しくなってしまった。
「この製品は、~できます」が直されて「この製品は、~できる製品です」とある。
詳細は書けないが、要は「名詞は名詞として訳せ」としか読み取れない赤字だった。
後出しジャンケンでそれはないだろう。
あらかじめそういう指示があれば従うこともできたが、納品物をみて「誤訳」だとさ。
「規格書」としか原文にないところが「納品仕様書」になっていたりの「誤訳」指摘も多数。
これを見せられて何が悪かったのかと聞かれても困る。
・金曜の夜中~日曜の正午までの時間に資料の請求や質問をしなかったのが悪いのか?
・とっとと提出した=拙速だったのか?
「できるだけのことはした、意味に間違いはなかったが表現上の差異があった」とひとまず翻訳会社には返信した。
努めて冷静に反省事項をまとめ、そうしたつもりだ。
悲しくなった、というのは、客先からと翻訳会社からの「不信感」をどことなく感じたからだ。
初めて発注する相手、それも試訳なしだったので、全幅の信頼を置けないというのは分かる。
それでも、その条件で発注したのは誰の判断?
心配なことがあるなら釘を刺しておいてくれれば、対処するなり断るなり、こちらにも手はあった。
特に何の注意もなく、金曜の晩に「納期は日曜の正午」とだけ言われて原稿を渡されたのだ。
いつものとおり訳して提出する以外に考えが及ばなかったのだが、浅はかだったのだろうか?
私としては、何か問題点があっても翻訳会社(と当方)で手直しできる時間をとって対処できる、との考えから、特に指示のない限り早めの納品を心がけている。
#無論、だからといって適当にさっさと仕事をしているつもりはない。
それが「拙速に過ぎる」と映ったのだとすると、この上なく悲しい。
それならそうと、客先提出の前に意見をくれれば再考の余地もあったはずだ。
合わせられるところは合わせる、それ以上のことはしない。
本件の責任はできるだけ負うが次回以降のつきあいはしない。
それだけのことなのだが。
頭では分かっているのに神経が落ち着かない。
未熟さ故のこと、と飲み込むほかないのだが。
いつまでやってんの
西日本セミナーから帰ってみると、上海からメールが来ていた。
中国語案件に応募したはずなのに、英文和訳の引き合いで思わずため息が出る。
ともあれ数百字ですぐ対応できそうなので引き受けることに。
納期が日曜という時点で「?」なのだが、日付が変わるような時間に納品しても返事が来るとは。
自由業者たる個人翻訳者が宵っ張りだったりするのは珍しくもないだろうが、翻訳会社まで?!
中国人は定時で帰る、なんていうのは過去の話なのかもしれない。
尤も、今回の「担当者」は「社長」なので「労働者」ではないと言われればそれまでだが。
JTF西日本セミナー
日本翻訳連盟の西日本セミナーなるものに初めて参加してきた。
「翻訳力」ステップアップとのことで、プレスリリースの英文和訳について講義を受ける。
原文が英語だから出てくる問題やら、プレスリリースだから出てくる形やら、かなり個別性が高かった。
ふむふむと参考にはなったものの、やはり本業の中文和訳にまで響く内容ではなかった。
収穫があったかも、と思うのはむしろその後の交流会。
事務局によると今年は例年になく参加者が少なかったようで、何となく話しかけやすかった。
初対面の人と話すのは極端に苦手なのだが、どうにか講師を含め5人との名刺交換に成功。
やはりと言うべきか、皆さん英語翻訳の方ばかりだった。
交流会の場で驚いたのが、一日の翻訳可能文字数。
先生ですら平均3000ワード、最高15000ワードとのこと。それでも十分に早い(多い?)ようだった。
Proz.comのプロフィールに平均5000ワードなんて書いている私の立場は……
決して拙速を尊んでいるわけではないが、TRADOSを使っているという違いもあるのかもしれない。
どうしてもその手のツールを使うと早さ勝負のような案件がかさんでしまうことも確かなので。
円高の影響?
「翻訳業界は景気の影響をほとんど受けない(が今般はそうでもない)」と聞いたばかりだが。
最近どうも外資(しかも国外)の翻訳会社・制作会社から声をかけられることが多い。
英日翻訳は本業じゃないのに断るだけで忙しい日も発生するほどだ。
その手の案件は特にどこの国から来ているというわけでもないので、永田町の影響もあまり受けない。
#中国がらみはどうしても政局に左右される気がする
ふと大昔に在籍していた某国際企業の話を思い出した。
輸出で稼いでいるがゆえに「1円の円高でうち(当社)は1億円の損だ」という。
それが今般の円高、恐らくちょっとやそっとのコスト節約なんて焼け石に水より無力だ。
で。輸出企業が円高で困る、ということは、輸入側(→対日輸出)は今頃ウハウハなのか?
そういえば依頼の内容も売り込み資料だったりすることが多い。
円高になったから対日輸出を始めます、なんてことは流石にないだろうが。
IT翻訳にもほどがある
相当な量のゲーム翻訳(中文和訳)が手離れしたと思ったら、海外某社から英語の案件が来た。
「サンプル付けるけど、これって翻訳できる?」
何のことやらと思ってサンプルを開いてみたところ、C言語のソースファイルらしい。
英語というより、言語が違う気がするのだが。
念のため「翻訳対象は引用符で括ってある中だけよね?」と確認中……
正直、ここ6年ほどこの仕事をしてきて初めて見た。
いつも翻訳会社の中の人が翻訳対象部分を切り出してくれているのか、そもそも回ってこないだけなのかは知らない。
それにしてもソースファイルって。
そっちの言語を知らない人間が触ったらほぼ確実に壊す気がしてならない。
英語力ってレベルぢゃね~。
実力の証明
日外アソシエーツのメールマガジンを読んでいたら、「トライアルを課されると怒る翻訳者が多い」とあった。
経験者に対してテストとは失礼な、と怒るそうなのだが、私にはぴんと来ない。
つきあいのある(しかも心証が良くない)会社から「このぐらいタダでやってよ」と言われて怒るなら分かる。
でも、仕事をしたことがない相手からの試訳依頼だったら喜んで引き受けるのが普通ではないか?
自分はこれだけの仕事ができる、という証明をするのに最も手近な手段だと思うのだが。
訳文のサンプルを送るという方法もあるが、版権や機密保持に問題のない原文を探すのに一苦労する。
いっそ相手が指定する文を訳して送るだけでいいなら、本番の仕事なみかそれ以下の手間で済む。
メールマガジンにもあったが、何年か経験があるというだけで実力を証明するのはやや無理がある。
まして、経験年数など詐称可能なただの数字だ。
自分が詐称する・しているつもりはないが、見知らぬ誰かが詐称していないとは限らない。
そういう目で採用・依頼担当者がこちらを見ている可能性も否定できない。
そんな無用な心配をするぐらいなら、四の五の言わずあっさりやってのけたほうがお得だと思う。
ことに私は仕事の速さが取り柄なので、出題されたらすぐに回答する主義だ。
相手が納品の早さまで見ているかは分からないし、早い=雑、と捉えられてしまうかもしれない。
でもその時はその時。縁があるかないか、相性の問題だと流すことにしている。
翻訳者のつくりかたにも書いたが、結局のところ相手が気に入れば合格、というだけのことなので。
業界の景気
月初に某取引先社長の談話で、流石に今般の不景気は翻訳業界にも来ていると聞いた。
なんでも、かつては聖域だった大企業各社の研究開発費が削られたあおりなのだとか。
……と言いつつその会社、半月規模の案件を2件目よこしたところなのだが。
まあゲーム翻訳は性格が違う、と言われても分からないでもない。
オンラインゲームは固定客がいる業界だということか。
一方、某海外取引先が「業績好調につき翻訳者紹介キャンペーンを実施」なるメールをよこした。
紹介した人材が採用された場合、社員なら初任給の一割、登録翻訳者なら100P分の報酬だとか。
そこの社員は電話でもメールでも優秀そうな空気を滲ませる人物ばかりだが、なんとも羽振りのいい話だ。
かくして私個人にはあまり景気の影響が及んでいる実感がない。
受注量の変動は元からあるし、月単位で数えるほど大きな波があるわけでもない。
尤も、変動を抑えるべく随分あちこちに登録してはいるのだが。
急用なのに
特定の会社や担当者個人を中傷する意図はないのだが。
「急ぎの案件」と電話してきた人が、1時間経っても連絡をよこさない。
体裁が対訳型になるか上書き型になるか、と聞いただけなのに答えがない。
「担当者に聞いてみます、どちらが手間にならないか」
で、彼女の手間と、相手の手間がかかり、私の時間が奪われていく。
時間いくらの仕事ではないだけに、受注が確定してから時間を潰されるのは痛い。
納期は明後日の朝。しわ寄せは全てこちらに来るのだ。
私が余計なことを質問してしまったのかもしれない。
こちらとて無駄な手間を掛けることに利はないので、善意のつもりだったのだが。
それにしても、翻訳会社が味方してくれなかったら翻訳者は本当に孤独だ。
自分で仕事が取れないばかりに、相手担当者に不満があっても呑み込んで付き合う他ない。
ま、世間一般の下請けなんてそんなものかもしれないが。
通じればいいのか
ミクシィの「サンシャイン牧場」なるものに誘われた。
牧場と銘打っておきながら畑しか与えられていないのはともかく、
ここの日本語表示がすばらしく中国語(の直訳とおぼしき表現)で面食らっている。
・肥料を使うとしばらくは重ねて使えないルールなのだが、
このときの警告に「土地が豊かで、次のステージで施肥しましょう」と出る。
語学力のある人が日本語に訳したんですねー、という感じがぬぐえない。
どこまで訳したらいいのか(どこまで原文のニュアンスを保つか)は翻訳の仕事で一番の要であるが、
いくらなんでもコレはないんでないの、とつい独りごちてしまう。
「原文が言っていることではなく、原文が言いたいことを訳せ」のお約束に従うと
上の例では「土地が豊かで」という表現がおかしいのではないだろうか。
ここでの目的は「一定期間、重複して施肥することはできない」旨の警告である。
そこから考えると、安直ながら「肥料を与えたばかりです」としたほうが意図は見えやすい。
また、後半「次のステージで施肥しましょう」も文法的には普通の日本語なのだが
このゲームでは「ステージ」の概念についてどこにも言及がないので、唐突な印象を受ける。
現状:「土地が豊かで、次のステージで施肥しましょう」
試案1:「まだ肥料を与えたばかりです」
ここで後半「次のステージで施肥しましょう」を置き換える表現を考えてもよいのだが、
日本人同士のやりとりでは省略されているほうが自然ではないだろうか。
敢えて付けると「次の肥料はしばらく経ってから与えてください」となるが、冗長に過ぎる。
しかもこの例文、小さな吹き出しの中に表示されるものなのだ。
簡潔に表現しないと読み取りにくくなってしまう。
しかし「施肥」という語彙がこれまたゲームの雰囲気になじまない。
いっそ、
試案2:「次の肥料はしばらく経ってから与えてください」
としたほうが分かりやすい気もする。
あちこちがこんな調子で、普通の(こんな商売ではない)利用者がどう思っているのか少し気になる。
もし「分かる(通じている)から別に気にしない」という人が大多数だと、商売あがったりだ。
しかし一応は日本語として分かる表現なだけに、日本語表現を磨くべきかというと何だか悩ましい。