現金な話

やけに慇懃な中国語のメールが来た。
「お時間よろしかったら登録なさいませんか?」
日本の翻訳会社でもここまで冗長な表現は使うまい。


得意分野と取引条件を知りたいとのことだったので、まずはCVを送付した。
「校正料金はおいくらでしょうか。
ご提示の翻訳料金は国内と比較しまして、些か高いのではないかと思われましたので」
飽くまでも腰は低いが数字は譲らない様子。
高いのは分かるが日本で生活するのには必要だからね、としか答えようがなかった。
まあこんな態度を取っていて続きはあるまいと思っていたのだが、意外にも翌朝に校正依頼。
依頼のメールも丁寧にまめに、疲れるほどたくさん来た。
「言い回しや表現を貴国の方になじむものに変えていただけませんか?」
日本人に見せたが分からないと言われた箇所がここだ、と画像が添えられている。
画像を見る限り、指摘された数行の修正で済みそうなものではなかった。
全体を直してしまっても問題ないかと聞き返した数分後に入稿。
得意分野とはおおよそ関係のない、ホームドラマのあらすじだった。
まずは自由にやらせてもらって気に入ってくれれば幸い、ぐらいの気持ちで取り組む。
校正結果は元の訳文が見えないほど真っ赤になった。


さて納品したものか、もう少し勿体ぶっておくかと思ったところでなじみの取引先から打診。
定期案件ではないが慣れている客先で、得意分野にかかるところの文書だった。
二つ返事で引き受け、原稿を開いて思わずにんまり。
やはりこちらが私の本業だという安心感のようなものがある。
先の校正でも特に苦手意識は感じなかったのに滑稽なものだ。
私も十分に現金だということか。

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