そして灯は消えた

先週、近所の弁当屋に初めて行ってみた。
夕飯時だというのに価格表は「品切れ」だらけ。
どうしたのだろうと思っていたら、貼り紙を見つけた。
入居している建物が取り壊しになるため翌日閉店だという。
貼り紙には移転先も仮店舗も記されていない。
案内されている近隣店舗は一駅も離れた隣町だった。
ともあれ弁当を注文すると、
「5分ほどいただきますがよろしいでしょうか」とうまい日本語が返ってきた。
中華圏の日本語旅行代理店で聞くのより数段きれいな日本語だ。
澄んだ声の彼女が厨房に注文を通す。
奥からは揚げ物の音だけが聞こえてきた。
数分後。
「大変お待たせいたしました」と厨房の人が出てきた。
レジ係の彼女には劣るが、やはりきれいな日本語だった。
……名札にあるのは中華圏の人名である。
前から店長一人、アルバイト一人だったそうだ。
湯気の立つできたての弁当を受け取り、料金を渡す。
チェーン店だからなのだろう、二人で千円もかからなかった。
「ありがとうございました」の声に送られて店を出る。
そこに「またお越しください」との続きはない。
なんだか自分が搾取しているような気分になった。
何か悪いことをしてしまったような切なさ。
少なくとも今の自分にはどうすることもできないのだが、このやるせなさはどう解決したものだろう。

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