客はむしろ向こうだが

昔、「お客さんが文句を言ってきたら感謝しなさい」とどこかで教わった記憶がある。
いわく、「本当に製品を嫌いな人なら何も文句は言わずに二度と来ないから」。
いつ誰が教えてくれた話なのかも思い出せないが、「製品」は「サービス」でも「店」でもいいだろう。
そして、そのどれでもない「態度」も該当するのだと思った次第。
翻訳会社の人から私にかかってきた電話なので、サービスの提供者はむしろ私なのだが。
もう二度と利用しない/させない、と心に決めてしまった。
恐らく相手に悪気はなく、ただ音声が聞き取りにくかっただけなのだろうとは思う。
それにしてもあの言い方はない。
電話の前に渡されていた原稿も誤記だらけ。
#客先支給原稿ではなく、翻訳会社側が画像を文字に書き起こしたもの
原稿の件は納品時に指摘しようかと思っていたが、そうする気も一挙に失せた。
電話か原稿か一方の問題であったら受け流していたかもしれない。
だが問題は両方とも、半日以内に起きた。
要はこの人(会社)、翻訳者のことを考えてくれていないのだ。と思ってしまったのだ。
甘えた考えかもしれないが、翻訳者の方を全く向いてくれない会社とはつきあいたくない。
せめて報酬が他社より高いならいざ知らず…

なんたる皮肉

副業の方が元データ待ちで手空きだったところに中文和訳校正の打診。
断るのも面倒だ、ぐらいの気持ちで引き受けた。
分野は経済。ある会社の株主向け四半期報なので、よく出る単語や言い回しは頭にある。
原文を印刷している間に訳文を一瞥したところ、早速おかしな箇所を発見。
たいてい序盤で間違いの見つかる訳文は、全体的に品質が悪い。
「辞書は引きました」と言いたげなぐらい、経済用語そのものには問題がない。
ただ、文書の用途と言い回しが合っていない箇所や、純粋に日本語としておかしい箇所が多かった。
刷り上がった原文と比較してみると、固有名詞に間違いを発見。
単語区切りを間違えたのかもしれない。
「~建設会社との契約」が、「~会社と建設する契約」になっていた。
直感的におかしいと思い百度で検索してみたところ、図星だった。
ちょっと検索するだけで分かるところなのに、経験不足なのか不注意なのか。
先日トライアルで不合格にした訳文の方がよほどよくできていた。
別会社の案件だったのでどうすることもできないが、とても皮肉に感じる。
優秀なのに惜しいところで登録翻訳者になれなかった人と、雑なのになれてしまった人。
あるいは自身も後者なのかもしれないが、どうも後味が悪い仕事だった。

メニューは訳しにくいらしい

これまで引き受けた仕事の中で最も難易度が高いと感じたのは料理名の翻訳である。
中国の料理名も日本でのそれと同じように、お店の造語だったりしてその文字列から意味が拾えなかったりする。
まあ造語だと分からないのはともかく、全く一般的な名前でもいざ考えると分からないものだ。
例えば有名な中華料理「八宝菜」をおなじみの翻訳エンジンが知っているのか試してみた。


「八宝菜」を日英翻訳
Google:Eight Treasure Vegetables←漢字を一個ずつ訳しましたね。分かります。
Excite:Eight [takarasai]←途中で放棄?
Yahoo:A Chinese dish containing eight kinds of ingredients←正しい説明文。だが文。


ついでに「八宝菜」を中英翻訳すると
Google:Eight dishes←文脈によっては正しそうな気もするが、よほどの低頻度。
ナンダコノチガイハ。


当てにならないことは一目瞭然といったところか。
Web機械翻訳が対応していないとなると、ひたすら検索するしかない。
受注頻度を考えると料理専門辞書を買うのも合理的ではないし……いっそ断るしかないのか?

日本人翻訳者の需要

先日の西日本セミナーとその後の懇親会で話題になっていたのが中国勢の脅威。
・日本語を学ぶ中国人の熱気が凄まじい
・なかなか流暢な日本語を使いこなす中国人も相当数いる
・企業によっては中国語+英日トライリンガルしか採用しないほど
・とにかく安くて優秀な人材が集まる@大連
…..と続いて、「日本人翻訳者の仕事は奪われてしまうのでは?」という話で盛り上がった。
要求品質と料金のバランスによっては十分ありえる話だ。


が、同じ「バランスの問題」で日本人翻訳者の需要もあり続けるだろうと私は思っている。
現に中国語訳のクロスチェック(日本人から見た妥当性の確認)依頼が来るからだ。
日中翻訳は中国人のほうが高品質になるのは当然だろうが、
それでも日本人(日本語ネイティブ)にしか認識しがたい誤訳が発生する。


・日本語には欧米言語のような「分かち書き」がないため、単語の区切りが明示されていない。
→かな部分の単語区切りの誤解による誤訳
・固有名詞の訳出が不自然になる。
→ビル名や商品名などの造語はその語句だけを訳すと死んでしまう。
→→由来や命名意図が考慮されない訳語になる。


いずれも程度問題と言ってしまえばそれまでだし、そういう誤訳をしない人も存在しうる。
中文和訳となると更に「見た目の自然さ」という難関がそびえてはいるが、
本当に「バランスの問題」だけで我々(私だけ?)が生かされているような気がしてならない。

わりとたいへんないちにち

ここのところ毎朝やっている経済記事翻訳の原稿が9:40になっても来なかったので煽る。
煽りなんてガラでもないのでかなり苦手なのだが、持ち時間が削られるより多少まし。
それにしても遅いなぁと思いつつPCに張り付いていると、S社長から(副業の)引き合いが来た。
すぐやれすぐ出せという感じではないので引き受ける旨を返事すると「レス早っ」との反応。
それはそうだろう、普段なら30分おきぐらいにしかメールチェックしないのだから。
結局、翻訳原稿が届いたのは9:48だった。最低記録更新。
担当者が「ゴメンナサイね、お客さんからもらうの遅れて」と冒頭で言っていたので許す。
でも流石に納品は納期ぎりぎり。
こういうときに限って分量が普段より多かったりする。


昼前には副業ネタも頂いていたのだが、まずは本業優先。
年に数回という微妙な頻度の定期案件が手元にある。
納期が金曜ということで急ぐまでもなかったのだが、存外さくさくと進んだ。
昨年分と重複が多い報告書だったのでTRADOS大活躍。
半日で20枚も処理すると、手指がつってくる。この処理速度は恐らく最高記録。


一息ついてから、副業に着手。
3問中の1問ぐらい終われるかと思っていたが、意外と進まず。
まだ感覚が取り戻し切れていないのかもしれない。

翻訳の教科書

『日漢互訳教程』(高寧・張秀華/南開大学出版社)という本を取り寄せた。
ネット書店で見かけたから買ったというだけなので大学での講義用かどうかは分からない。
成分献血の採血中、その序文だけを読んでいたのだが面白かった。


中国語では「翻訳」に日本語で言うところの「通訳」も含まれる。
強いて識別するには前者を「筆訳」、後者を「口訳」と表記するのだが、序文での説明が両者の共通項だったり相違点だったりして読むのは大変だった。
「訳者の仕事は何か」という話なのだが、「口訳」の場合の喩えが「嫁姑の板挟みになる夫」。
どちらの立場、心情も理解しなければならないが、どちらになびいても後が大変という。
当然と言えば当然だが、「口訳」と上記「夫」の違いは、自分の意見を出すべきか否かである。
自分で考えなければならないが、自分の考えを言ってはいけない仕事…ということにでもなるか。
私の仕事でもある「筆訳」については、「むしろ読者の代表となれ」とあった。
通常であれば原文と対話をする権利(機会)は訳者にしかないのだから、訳者は読者の目で原文を見よとのこと。
筆者の言いたいことを伝えるというのはもちろん前提として、だ。
「筆訳」は「口訳」と違って、受け手が自分と空気を共有していないことに配慮する必要がある。
その場にいれば何となく伝わる(非言語的な)情報というものがない、ということ。
まあ通常業務を想定すれば、読者どころか筆者と空気を共有することもまずないのだが。


教科書のしかも序文だけにごく当然のことばかり書いてあるのだが、敢えて活字になっていると新鮮だ。
二年ほど通っていた通訳/翻訳学校には定型の教科書がなかったので……
実例から入る講義もそれはそれで面白かったものだが、形から入って再整理というのも乙なものだ。

新しすぎる単語

私は納期に遅れたことがないのをささやかな誇りとしているが、今日はかなりぎりぎりだった。
新聞の経済面にある記事の翻訳なのだが、原稿が記事見出しだけ(元記事の本文がない)。
そこで唐突に新語を見せられると、わずか二文字の訳出に三十分ほどかかってしまう。
固定訳どころか中国語サイトでの語義も固まっていないような新しい単語たち。
しかもそういうのに限って省略できない述語に使われていたりする。
思えば、これまで新語が無視できないような文書を扱ったことがなかった。
あっても技術用語などは割と簡単に調べがつく。
略語の法則性のようなものに慣れてさえいれば何とかなった。何とかしてきた。
それが今回は勝手が違う。
たたでさえ経済用語なのに、新しく作ったり適当にはしょったりでもう何が何だか。
しかも各メディア(主に新聞サイト)が何の説明もなく一斉に使っていたりする。
新聞として読んで分かるのかなあ、これ(ら)。

まめすぎ

例のタイムトライアル翻訳は、翻訳会社側担当者が複数いるらしい。
そっちはちゃんと休める体制なのね、という視線はともかく、担当者ごとに態度がまるで違う。


今日の担当者は妙に細かい人だった。
・発注書(一日分ずつ起票)を三日分発行しておいて、今日の分だけ金額訂正→当方の確認処理が必要。
・納期が11:00なのに10:25に「まだ~?」とメールをよこす→割り込まれて邪魔。
・発注書でアップロード先を指定しておきながら「システム使えないからメールして」
・メールで「同じものアップしたよ」と(訳文を添付して)送っているのに「くれ」メール
・仕方がないのでメールを書き直していたら「まだ~?」と国際電話
……真面目なのは分かるが、ザルな人よりこちらの負荷も大きい。


一方ザルな人は(同じ案件を)どう回しているかというと。
・原文を送りつけてくる。本文には「best regards」としか書いていない。
・発注書の起票を忘れる。
・訳文をメールすると、「Received」だけの返事。
・夜中に当日分の発注書を発行。
・「確認処理できないよ~」とメールすると「大丈夫、こっちでやっとくわ」との返事。


前者(マメ)な方が最初は安心できるが、慣れてくると後者(ザル)の方が私には楽だ。
無論、こんな落差はないに越したことがないのだが。

パートタイム自由業

昨年末にやっていた経済ニュースのタイムトライアルを、今日から毎朝やることになった。
平日(中国の)毎朝、9時から11時ぐらいまでの時間が拘束されることになる。
いつまで続くかは未定。先方いわく「少なくとも一年間」。
まあ規則正しい生活の一助になるかと思っているが、出勤0分のパート気分。
拘束される時間があってこそ、自由にできる時間のありがたみを満喫できるかもしれない。

翻訳会社に立ち入ってみた

日曜の晩に「明日お時間ありますか?」と意味深な電話。
翻訳者として登録してから二年ぐらいたっている翻訳会社からの呼び出し?だった。
仕事内容も報酬も話さないまま、訪問時刻だけが決定。
ともあれその時刻に訪れてみると、電話の主はそこの社長だった(そのぐらい調べれば分かったろうに)。
雰囲気がまるでアルバイトやらパートの面接とは違い、「経営者と自営業者の会話」。
これまた条件面の話をしないまま一時間ほど経ってしまった。
「で、お手伝いいただきたいのは和訳の校正でして」と席に案内される。
中国語の受発注担当者は朝鮮族のトライリンガルで、韓国語の担当もしているらしい。
社内で校正というと彼が担当しているようなのだが、仕事がありすぎて回しきれず残っているとのこと。
「変更履歴をつけて上書きでお願いします」指示はそれだけだった(むしろ気は楽だ)。
彼らの電話応対やら愚痴やらが、ここでは晒せないがかなり面白い。
なるほど、中の人はこういう苦労をしているのだな。
5時過ぎには帰社すると言って出て行った社長が再び現れたのはほぼ6時。
それから私が作業した内容の確認を自らしてくれたのはいいが
報酬が時給+昼食補助+交通費だということで説明を受け、勤怠表を付けたら7時前だった。
ふらっと家を出て帰宅したら8時……何とも妙な気分。
「いつでも時間があるときだけでいいので何時間でも来てくださいな」
……そんなパートってありなんだろうか?
そして私の返事は?←是非を答えていない