於:上海→杭州
午前中に最後の試験を終え、午後三時頃にタクシーで寮を出発。
待合室で一時間半ほど過ごしエスカレーターで上海駅のホームへ向かう。
のこり数歩のところでエスカレーターがいきなり停まり、のっけから驚く。
五時前発の旅游列車なる観光向きの電車を拾うと、杭州には七時頃に着く。
ものの本には四時間ぐらいかかると書いてあるのだが、ノンストップ便のせいなのか速い。
テストの感想やら名物料理やらの話をしている間に着いてしまった、…..のは杭州”東”駅。
師匠が持ってきた本には「杭州駅」しか書いていない。杭州”東”駅ってどこなんだ?!
ともあれ下車してすぐ、明日の目的地・紹興までの切符を買うのが最大の急務である。
というのは前回の鎮江駅では切符売場が見つけられずホテルを通してしか買えなかったからだ。
しかもホテルならどこでも切符の手配をしてくれるとは限らないのであてにはできない。
しかし幸いこの駅は観光客に慣れているらしく切符売場までの案内板がちゃんとあり、看板も特大だった。
念のために欲しい切符の種類から枚数までは細かくメモしておいたので、窓口の人にそのまんま渡す。
辺りがうるさくて喋っても相手に聞こえないようだったからである。
無事に八時発の軟座を二枚連番で入手。下手にホテルを通して買うよりよかった。
現地の地図を即座に買い、今いる東駅の位置を確認。幹線は元々ここで、杭州駅は地方線の駅らしい。
ただ本にある地図は間違いなく杭州駅を基準に描いてあるので、少々ややこしいことになった。
拾えるはずのバスが別な路線の駅から出るというのでは全く便宜性がない。
止む無くタクシーを拾うことになったが、乗り場は分かりやすい場所でかつ整然としており一安心。
乗り場が遠い上海や悪質な客引きだらけの蘇州よりはるかにいい。
今度のホテル「杭州友好飯店」は日中合弁なので日本料理屋が一階に入っている。
名物料理は明日に回そうということで、天ぷら定食をとった。げに二ヶ月ぶりの日本食。
素材はピーマンやら人参やらあってやや奇妙だったものの、揚げたてだったので美味だった。
部屋で明日の日程について相談。紹興観光から戻って余裕があれば杭州名物料理で夕食。
行けない可能性もあった紹興への切符が買えたとあって、朝に弱い師匠が五時半に起きると宣言。
五時半になら私は起きられるはずだが保険がてらモーニングコールを頼む。
「互相学習」に費やすこと二時間半。喋れるんじゃないのか?私…..。
普通テスト期間中は学外の子を呼ばないものらしいが、私は来るものは拒まない。
相手が今週もやりたいと言うからには、空いている時間ぐらい提供するのが筋だと思っている。
なにぶんお互いの勉強を手助けする約束なのであって、単なる私の為の補習とは違うからだ。
それでも週二回のところを旅行の都合で一回にしてもらっているのでお互い様とも言える。
私はテストも残り一科目だし授業も勿論ないので何も教えてもらう必要はない。
そうなると彼女に初級日本語を少し教えるだけなので余り時間は要るまいと思っていた。
ところが何故か今回に限って持って来ている教材の量が多い。授業がかなり進んだらしい。
彼女いわく、二週間ごとに先生が変わるのでやりかたが一定していないとのこと。
しかも今回の先生が金曜に試験をすると言いだしたから大変らしい。
短い挨拶文を用いて先生と対話するのが今回の課題らしく、説明に困ることしきり。
何故なら中国語には「ただいま」/「おかえり」、「頂きます」/「召し上がれ」に相当する表現がないのだ。
つまり私は概念から説明せねばならない。しかも自分の拙い中国語で…..。
辞書を引きつつ筆談も交えつつ苦戦はしたものの、何とか理解はしてくれたようで一安心。
文の読み方も教えて欲しいというので最初は彼女に読ませてところどころ訂正を入れ、
一段落してから全体を通して私が音読した。神妙な態度で聴き入っていた彼女が一言、
「日本語の時はゆったりとしてて通るいい声ね」。…..。
奇妙な通達。空調のリモコンから電池を抜け!
私のいる五号楼と隣の四号楼は各室に空調が据え付けてあるが、これが暖房の役に立たない。
暖房は専用の管にどこぞから熱湯が流れてくるという全校共通の奇妙な仕組である。
従って涼しくなった以上もう空調を使う人なんぞ流石にいないことは明らか。
しかしわざわざリモコンの電池を住人が抜くなんて…..。
手紙でも来てないかなぁと思い寮の出入口を見に行くと、何やら黒板に書いてある。
大抵ここには「小包あり、郵便局へ急げ」「電話かけすぎ、料金追徴」などが並ぶのだが、
読んでみると空調の誤動作を防ぐ為、リモコンから電池を抜くようにとある。
主電源も切らずに誤動作を防ぐも何もちゃんちゃらおかしいが、それが中国人。
要は公費で入れている電池の消耗が惜しいだけなのだろう。見えみえもいいところだ。
ともあれ開けてもいいならこじ開けてやろうとリモコンを手に取る。
普通リモコンというと背面に蓋があって矢印の方向に引けば開くものと決まっている。
ここでも中国製のTVのそれさえちゃんとそうできている。なのに空調のだけ違う!
恐れ多くもシャープ(ここの”夏普”かもしれないが)製なのに、背面に蓋がない!
前面の蓋はスライド式で、引ききっても外れないようにできている。
細かい設定をするときしか見ない個所なので多分その存在を知らない人もいるだろう。
ともあれ、電池が何処なのか表示がない。こうなったら自分でこじ開けるまでである。
とはいえネジもなければ噛み合わせのずれも見当らない。怪しいのはやはり蓋だ。
プラスチックの柔らかさに任せてうににと左右に引っ張りスライド蓋を外す。
案の定ここにましましていた。錆びた単四電池が二本、ごろっと。
つまみ出してさっさと蓋を直したはいいが、何故か指が臭くなった。
遂に「昇段考試」開始!のっけから二科目。
今週は四日連続で「昇段考試」があり、代わりか金曜は休みになる。
言わば中間試験のようなものだが、名前に昇段とついているのが曲者。
合格が前提に作られているが、一科目でも落とすと昇段できないのだ。
そして今学期の後半また同じ教科書を最初から勉強し直しということになる。
下の段の子が上がってくるので、もし落伍したらクラスも変わってしまう。
落とせないとは思うののの、ここまで迫ってしまっては勉強のしようもない。
しかも今日の科目は聴き取りと泛読なので復習のしようもなかった。
だからみんな一緒だろうと自分に言い聞かせ、八時の聴き取り試験に参加。
解答用紙が二枚あって、どっちが先だろうと考えているうちに第一問が終わってしまった。
でも焦る暇はないので第二問から復帰。ともあれ六割さえ取れれば昇段はできる!
ところが杞憂だった。問題文は二度ならず三度も流されたのだ。安心そして退屈。
長い昼休みを挟んで泛読。一見したところ全て選択問題のようだ。
制限時間は一時半から三時までとなっていたが、途中退室は許されるらしい。
お言葉に甘え、二時ちょっと前に提出して席を離れた。背後に歎声を聞きながら。
考えて解る問題は最初から解けるし、考えて解らない問題に時間を割くのは無駄だ。
ただそう思って出てきたのだが、相当でかい態度だと思われてるだろうな。
ドイツ留学中の友達からの手紙。よく届いたもんだ。
ここには日曜でも郵便物が届くらしい。しかし一日一便らしく、夕方にしか来ない。
更に部屋番号まで書いてあっても建物の出入口までしか届かないので厄介である。
手紙をくれる人も結構いるので、私は決まって五時半頃に出入口を覗くことにしている。
今日も一通あった。しかも差出人の住所が漢字で書かれていない、ということは…..?
ドイツの住所を控え忘れてしまって私からは連絡していなかった子が思い出してくれたのだ。
私が彼女に住所を教えたのはまだ日本にいるうちだったので、部屋番号など書かれていない。
それでも学校から寮までは届くのだから感心したものである。郵便屋さんも慣れたのかしらん?
旅先の様子だという絵はがきの写真を眺めながら返事を書く。
書き終わったはいいものの、ドイツまで封書はいくらするんだろう?
日本までが五元四角なのは覚えているが、流石に欧州までとなると判らない。
確か航空便は遠くなると高くなるはずだったが…..郵便局に行くしかないか。
歩いて二十分もかかり更に局員がすばらしく訛っているあの局に。
朝っぱらから「互相学習」。でも楽しかったので満足。
今日は朝八時から本学の子が来てくれる約束である。とりあえず起床は六時。
平日なみに朝の時間を過したつもりが、ゴミ出しをしていて少し遅れてしまった。
果して彼女は時間どおりに来るくちだろうか、それとも無頓着な方だろうか。
こんな時ばかりは相手にもルーズでいてほしいと思ってしまう私。ともあれ門へ急ぐ。
まだ会客室の電気もついていないというのに、彼女は既に来て待っていた。
弁解しつつ謝ると、苦笑どころでなくきゃははと笑われた。珍しく思われたらしい。
ともあれ管理人に電気をつけてもらい、本日の学習開始。まずは彼女から。
基本名詞を覚えるためのものらしいプリントで、読み方の復習をしたいという。
日本間・洋間それぞれに家具も描き込まれており、覚える単語の量が多くて大変そうだ。
「和室」には炬燵や座布団、はては火鉢やら掛軸までの家具類があり、障子も床の間もある。
「洋室」にはテレビからエアコンまで外来語がにぎやかに盛り込まれていた。
いくら何でも火鉢なんて一般家庭には最早ないと思うのだが…..。
私の番になったので口語の教科書を出し、対話課題の練習相手になってもらった。
歳が近いせいかどうも進めるうちに話題がそれて横道に行ってしまう。
それが楽しくもあり、また生の口語に触れるいい機会でもある。でも問題が…..。
日本には普通にあっても中国にはないもの=「ですます調」のような丁寧語。
中国にはあっても日本ではまず見掛けないもの=バスの讐票員(車内で切符を売る人)。
中国のスーパーにしか多分ないもの=荷物の預かり所。やはり万引防止のためらしい。
そんな話から何故か生活費の話まで、よくもまぁ私の語彙でついていけたと思う。
残念ながら来週は出かける用事があるので一回しか来てもらえない。しかも水曜。
元々の約束が火曜と土曜なのに大丈夫かと聞いたら、水曜ならとあっさり承諾してくれた。
ここまでさくっとした人柄も余り見掛けないような気がする。
旅行社を訪ねる。騙したのは誰だ!
来週テストの打ち上げに杭州旅行をするため、切符の手配をする段になった。
『地球の歩き方』によると、北京西路の国際旅行社に行くと日本語が通じるとある。
また、切符の手配もやっていると確かに書いてあったので疑いもなく師匠と出かける。
と、日本語のできる人に会えたはいいが「切符はここではとれない、金陵東路に行ってくれ」と言う。
ふに落ちないながらも言われた通りまた行ってみると、今度は「切符は四日後までのものしか売れない」。
すなわち来週また出直せという。売っていないものは仕方がないので引き下がった。
本には一週間前から予約できると書いてあるからわざわざ来ているというのに!
何もせず帰るのも癪なので、師匠につきあってもらって母のお使いをすることにした。
漢方の外用薬を友達に頼まれているので買っておいてほしい、というものだ。
南京東路に医薬の百貨店を名乗る所があるので訪ねてみると一発で買えた。
そして引き返す途中ふと道の対岸を見ると、ここにも国際旅行社がある。
しかも切符を扱っていると看板あるので、だめもとで入ってみた。
聞いてみると、切符だけでは売れないが宿の予約と一緒になら受けつけるという。
何とも理不尽な話だが、二度手間になるよりはましなので両方やってもらった。
そして、この一件のオチ。受け取りは北京西路の店で、だそうな。何てこった。
じゃあ最初の相手に粘って同じ条件を出せば交通費を無駄にすることはなかったのか?!
これって中国人にしてやられたんだろうか。本に騙されたんだろうか。
ぼちぼち発表される昇段試験の日程。生殺し。
昨日のテスト疲れのせいか、今日の朝イチは学生が少なかった。
先生も試験監督だったのか妙に同情してくれて、授業の開始を遅らせたほどである。
が、癪に障ることに、昨日の「総合考試」とやらは成績に全く関係ないらしい。
「単なる学力水準の参考」にするだけなんだったら本試験のあとにしてくれっちゅうに(怒)!
やっと教室の席が半分ぐらい埋まったところで、先生がおもむろに来週の予告。
泛読の試験は月曜の午後一時半からで、内容は半分が授業と一緒で半分が新しいもので…..。
木曜の授業はなくなる、ということだった。何だか楽そうで、それはそれでいい。
次の時間には、精読の試験が木曜の朝八時半からだということを聞いた。
また出題の内容から傾向までご丁寧に解説してくれたのだが、ありがたくない。
選択式のが多いってことは、つまり特に勉強の必要がない訳であって、嬉しくない。
何故ならこの本試験は「昇段試験」であって、落伍者をふるい落すためにあるのだ。
見るからにやる気のない連中にはいっそ出ていって欲しいので難しい問題も必要だったりする。
午後にはまた聴き取り試験が月曜の朝八時からで内容は本とは違って…..の解説。
余りにばらばらだらだら説明されるとだるくなってしまう。
何でまとめた日程表を配るって頭がないんだ?中国人。
ほとんど抜き打ちで「総合考試」。これってHSKまんまやん!
今日テストがあるらしいということは、先週末の掲示で知った。
但しそこにあった情報は「必須参加朝八時半から第二教学楼にて」のみ。
会場の教室やら席次やらは月曜の授業中に受験票を渡されて下見の余裕もない。
先生も「今更あがいたって意味ないよ」としか云ってくれなかった。
テストが何時までなのか、午後の授業はどうなるのかも知らないまま当日を迎える。
八時ちょっと過ぎに受験票の場所へと移動。見慣れない顔ぶれが多い。
どうやら私のクラスと隣のクラスがごっちゃになって受験するらしい。
そして各人の机の上には怪しげな音のする黄色いヘッドホンが置かれていた。
手にとって見ると、FM某と表示されている。朝っぱらからこんなもん放送するのか?
さながら小学校の運動会BGMのような曲が流れてくるのだ。これは一体…..。
しかも気に入ったのか隣の席のフランス人が適当に歌いながら踊り始めた!
流石に試験監督のお姉ちゃんが踊りは止めたが、音楽は鳴り続けている。
それが忽然と止んだかと思うと、「総合考試へようこそ!」のメッセージが聞こえてきた。
問題数やらマークシートの使い方やらの聞くまでもない説明がとうとうと流れる。
しかも男声と女声の二度、全く同じ説明が…..これってHSKまんまやんけ。
さらにまんまだったことには、説明が切れた途端に聞き取り問題が始まっていた。
そういやそうだったと気づいた頃には既に第三問。むざむざ六点は無駄にしたな、私。
幸い残りの問題が適当に判ったので惨事には到らなかっただろうと思うが、
HSK受けたことない人は相当びびってるな、とほくそ笑んでしまえるのが経験者の強み。
鬱陶しいのは、各分野ごとに回答時間が固定されていることである。
語法の部分がさっさと終わっても読解に手をつけてはいけない規定なのだ。
焦る→時間が余る→眠くなる→次の問題、が三度も繰り返された。
だるだるで会場を後にした。はいいが、しっかり午後の授業はあるらしい。
ただでさえ眠いってのに口語の授業なんて、喋る気も起きやしないのに…..。
本学の子を相手に第一回「互相学習」。何だか話が違うぞ?!
二時半に本学の二人と待ち合わせだったので、十分頃に学院の門まで行ってみた。
すると何分か遅れたのはともかくとして現れた中国人が三人いる!一人は誰だ?
どこで勉強しようかと一人に聞くと、実はこれから授業があるので都合が悪いという。
何だか話が違う。一体どうなってるのかと思いきや、代わりの子を紹介するからと言われた。
問題の「三人目」は彼女たちが私に引き合わせようと連れてきた後輩だという。
二人はその子の名前を教えるや否や、すぐ授業なのかそそくさと帰ってしまった。
実は日本語のうまくないのが二人も来てどうしようと案じていたところなので一安心。
しかもよくしたことに、二人よりこっちの子の方がお友達になれそうなタイプの子だった。
一年生だというだけあって使える単語は少ないようだが、聴き取る力が優れている。
遠慮なく普通の速さで日本語を話しても彼女が既に習った単語ならば判るらしい。
まずは初対面だということで、軽く自己紹介と四方山話から始めた。
教科書の内容から話がいきなり漢詩に飛んだりしていたのだが、不思議と苦痛に感じない。
きっと気が合う相手なのだと(多分お互い)どこかで感じたのだろう。
将来は通訳になりたいという彼女の目はいい感じで好奇心に満ちている。
本学の学生だけあって利発さも十分。本当に敬意をも持って仲良くなれそうな気がする。
次回以降いつやろうかという話になって、彼女は週に一度か二度がいいと言う。
本来なら財経大学の子もいるし週に一度でいいかと思っていたのだが、
思いのほか彼女が気に入ったので(笑)火曜と土曜の二度にしようともちかけてみた。
火曜は午後から勉強で、土曜は朝から…..勉強、気が向かなければおでかけ(!)に決定。
今度の土曜が非常に楽しみだ。と思ったが、中国語で表現できなかった。