再発行の学生証をもらいがてら学生課で「Fビザをもらいそこねました」と言ってみた。
すると話した相手がパスポート紛失事件を知っている先生だったので妙に心配してくれて、
それじゃ今どうしているのか、大丈夫なのか、と聞いてくる。しかも深刻そうに。
手元の滞在ビザとやらも十九日まで有効なので私本人の方がむしろ呑気だったほどだ。
私はどうにかあと一回で滞在期限を延長できればいいかなと希望していたのだが、
先生は何かわちゃわちゃ云いながらも公安局外事科(ビザの発行元)に電話してくれた。
あいにく係がいないらしく電話がつながらないそうなので、その場は引きとって授業へ。
放課後にまた学生課を訪ねてみると、何だか解らないが話は既についたという。
でどうなったのかと聞いたら、紹介状を持ってすぐに公安へ行けとのお達し。
中国人は滅多に急ぐということをしないので、どうやら余程の事態らしい。
その紹介状とやらは他の先生が一筆したためて判を押してくれた。
何の変哲もない印刷物に私の名前と用件が少し書き込まれているだけの小さい紙だが、
大学名の判が押されているといわゆる黄門様の印籠ほどの御利益があるのだ。
これと写真と元々のビザ申請用紙を持って公安へ行けば何とかしてもらえるはずだという。
幸い必要なものは手元に揃っていたので、善は急げとばかり校門からタクシーを拾う。
高くついても便宜には代えられない。これが外国人の泣き所!
さて外事科のビザ申請受付で紹介状を出すと、何故か居留証窓口に回された。
こっちの人が電話の相手かしらと思って素直に従ったのだが、違っていたらしい。
おっちゃんは紹介状を見て暫く黙っていたが、ややあって何やら申請書類をくれた。
必要事項を記入したら、ここではなく一番端の窓口に行けという。
何でたらい回しにされるのか不可解でならなかったが、謎は行ってすぐ解けた。
端の窓口のおっちゃんは日本語が解るのだ。ちょっとだけ安心した。
臨時居留証を作っていいのかと聞かれたが、いいか悪いかの判断材料はない。
それで一月末までいられるのか尋ねたら、大丈夫との返事。云ったな?おっちゃん!
もし何処かで引っかかったらこいつのせいにしたる!←これは中国では常識らしい。
ともあれ一週間後と書かれた引換え券をもらい、悠々とバスで帰途に就いた。
天下に知られる景勝地「西湖」を歩いて縦断。ちょっとだらだら。
於:杭州→上海
二泊もしながら、杭州観光そのものに割いた時間はものの半日しかない。
しかもほぼ北端の霊隠寺からほぼ南端の六和塔まで内容はもりだくさんの予定。
バスを待つのも鬱陶しいので飯店からタクシーで霊隠寺に直行し、有名な磨崖仏だけ
鑑賞して寺そのものには入らず。せかせかと再び車を拾い、岳飛の廟へ。
週末のせいか寺といい廟といい人出がものすごく、歩いているだけで疲れる。
ことに岳廟の見せ場である「墓前に引き出された敵将の像」などは覗くのだけにも数分かかった。
そしてよく見ると銅像の一部がへこんでいる。傷みの激しい物にいたってはハンダで埋めてある!
どうやら観光客がひたすらなでるので摩滅してしまったらしい。「現行犯」を見る。
目的地のうち関心の高い物から二つを踏破してしまったので、漸く余裕が出る。
折角ここまで来て湖を鑑賞しないのも勿体無いからということで「蘇堤」を歩いて縦断することにした。
本当は遊覧船にでも乗って湖の中から見るのがいいらしいのだが、人いきれが厭なので回避。
中国での人ごみは何をなくすか分かったものではないので通行人の少ない堤を選んだ訳である。
詩人として有名な蘇東坡の指揮で作られたという堤は既に舗装されて久しいようだった。
だらだら四十分ほど写真を撮りながら歩き、南岸の近くにある「花港飯店」で昼食。
名物の東坡肉をつついて一服。これで食堂がもう少し空いていれば嬉しかったのだが。
午後は南側の観光地である六和塔とHuPao(虎が走るの意)泉を見学。
塔からの眺めは霧のせいもあって余り楽しめなかったが、空気がよくてほっとした。
そして泉は山を少し登ったところから湧いている。とても水がきれいで見ほれた。
中国人観光客はこぞって源泉の水を飲んでいたが、流石に飲む気にはなれなかった。
帰りの汽車でお手洗いが使えない心配があったからである。
シャングリラでの一服を経て杭州東駅、そして上海へ。現実に戻る時が来た。
夜景が多くなるにつれ、気が沈んでくる…..明日からまたいつものあれか。
近所の「インターネット屋」体験。ちょっと愕然とする。
昼下がり、今週の「互相学習」も終わり手持ちぶさたになったついで先日の店に行った。
割安感のある「国際網絡」とやらを三十分ほど試してみるつもりで店の人に声をかけてみた。
「上網?」と聞いてきたのでそうだと答えると、一台のデスクトップ機をあてがわれた。
現地製なのかキット制作なのか本体は得体が知れない。でもWIN98が入っていた。
傍らには33600bpsのモデムが無造作に置かれている。外付CD-ROMもあった。
見る間におっちゃんが勝手に接続する。とはいえ単なるダイヤルアップだったが。
一分ほど待って接続できたはいいが、検索エンジンが全てアメリカ版なのに参った。
中国版もいくつかあるのは知っていたので無理に探し出したが、役に立たない。
ものの見事デッドリンクだらけなのだ。何なのだこのつまらなさは!
現地のプロバイダぐらい探し出さないともとは採れないのだが、一時間で諦めた。
これじゃ部屋で高い接続料かかってでも日本経由で探した方が早い!
近所の「インターネット屋」を覗く。でも立ち寄らず(笑)。
普段メール送受信だけなので余り気にしてもみなかったが、実は通信費は結構な額である。
グローバルローミングとやらの御利益にあずかっているので電話代こそかからないが、
その接続手数料(?)が一分につき三十円も取られるのだ。
利用方法は上海市内のアクセスポイントにただダイヤルするだけなので至って簡単。
SMTPサーバーとダイヤル先の設定をいじれば、他に手続きは不要という手軽さである。
まぁ国際電話で日本のどこぞに接続するよりは安いのだろうから致し方ない。
因みに中国-日本間の電話料金は標準で一分につき二百円ぐらい(レートによる)。
上海の市内通話が三分につき今で七円ぐらいなので、まだ割安感がある。
問題は、電話回線の質かアクセスポイントの処理能力か接続に時間がかかること。
たった一通のメールを受信するのに四十秒ほど待たされる時すらある。
心もちサーバの反応も遅く感じられるので、本当にメールチェックぐらいにしか使えない。
そんなわけで日記の追加掲載もためらわれてしまうのだ。
もし現地のプロバイダが見つかるなら乗り換えようかとも思ったのだが、ない。
寮の並びに「電子網絡、国際網絡」「電子郵件」との看板をあげた店はあるのだが、
覗いてみたら接続料は一分につき三角(五円ちょっと)、しかもサイト閲覧だけらしい。
そしてメールは一通につき二元半(四十円弱)という奇妙な別料金制だった。
どうやらインターネットカフェに相当するサービスがあるだけで、プロバイダではないらしい。
かくなる上はその辺の店で検索してプロバイダを探し当てるしかないのか?!
「花園飯店」で昼食。げに二ヶ月ぶりの洋食!
今日は「今月の打ち上げ」とのことで、市内の5ツ星ホテル「花園飯店」へ赴く。
ここのレストランで二ヶ月ぶりの洋食にありつけるという話だ。
師匠は慣れているそうで何気なくすすっと歩いて行ってしまうが、怖くてなかなか進めない。
回転扉にはボーイが数人ついているし、やけに広い通路は高そうな絨毯で思わず息を呑んだ。
ここは金持ちの来るところだぁ、余りにも分不相応すぎるぅぅ!と心が悲鳴を上げている。
多少は覚悟していたはずなのにやはり怖じ気づいてしまった私。
しかし料理は思ったほど高くない。ランチタイムとやらのせいかは定かでないが、
カジキのグリルにサラダと主食、それに飲み物が付いて九十五元。許せる値段ではある。
学食で出るのは中華かつ肉料理ばかりなので魚がいいとばかりそれを注文。
サラダは各自で取るようになっていたので、久々に生のトマトを拝んだ。
パンを頼んだら、三種類を籠一杯に詰めて係の人が現れた。とりあえず二つもらう。
フランスパンよりロールパンの方が硬かったのでやや意表を突かれた気分。
そしてメインディッシュ。七ミリ前後に切られたカジキの網焼きが出てきた。
二枚の重なる部分に刻み葱が載っていて、バターソースが回しかけてある。
そして付け合わせがカレー味の馬鈴薯と温野菜のサラダ。流石にどれも美味。
問題は、葱が長葱だったことである。繊維がナイフでは切れない。
音はしていなかったと思うがカチャカチャ頑張っていると、師匠に「もういいよ」と言われた。
なまじちゃんとできないなら恥ずかしいからフォークだけで食べていいとの仰せ。
身の程を一気に思い知らされた気分で思わず泣きそうになった。来なけりゃよかった。
出際に他の客を目にして閉口する。私どころでなくめちゃめちゃな食べ方ばかりだった。
建物も出すものもサービスも一流だって、客が一流だとは限らないということか。
まぁ私なんかが紛れ込んでるんだから致し方ないが、妙に後味の悪い思いをした。
学生課の仲介で復旦本学の学生さん達とご対面。困惑。
昨日の通知こそ、学生課が仲介する本学の「互相」学生と対面させるというものだった。
しかも昨日の夜に手渡されたってのに期日は今日の四時半。会議室集合、時間厳守とある。
申請からげに一ヶ月は経っている。今更と思いつつ、興味はあるので出席してみた。
と、驚いたことに中国側の面々が既に揃って円卓を囲んでいるではないか!
当地の人々はことごとく時間に無頓着なものだとばかり思っていたので結構たまげた。
そして日本人学生達は律義にも四時半ぴったりに入って来る。全部で七人。
更に他国出身者(英語で中国語の説明を受けるらしい)が更に数人いたが、詳細不明。
中国側は思うに二十人ほどいたのだろう。ともあれ日本人より多かったことは確か。
円卓の周囲は塞がっていたので、我々には窓際の比較的いい椅子を勧められた。
椅子が柱を挟んで東西に五客ずつ置いてあったので、まず私を含む五人が東側に座った。
少し時間をおいて中国側の日本語学習者が椅子持参でわらわらと我々の前に集合。
男性が二人に女性が四人。反して日本側は男性が一人に女性が三人。
柱の向こうを見ても中国側が三人に日本側が二人。どう見ても数が合わない。
まさか浮いた学生が空しく引き下がるとも思えない。本学の学生は非常に勉強熱心だからだ。
とりあえず各人がたどたどしく自己紹介して、相手を限らずみんなで適当に喋る。
そのうち、柱の正面に座っていた二人の女の子が私に改めて名前を聞いてきた。
当地で作った名刺を二人に渡し、代わりに名前を書いてくれるよう頼んでみる。
彼女達は親切にも名前に仮名をふってくれて、かつ連絡先も併記してくれた。
標準語の発音もいいし、なかなか気の利くところもあっていい子達だなとひとまず感心。
唯一最大の問題は、二人とも日本語がうまくないということである。
較べては悪いのかもしれないが、財経の彼女の方が上手だと認めざるを得ない。
幸い私の拙い中国語でも聞き取れるらしいので止む無く「商談」は中国語で進める。
ここでもまた「発音が正しい」と喜ばれた(中国人にはよく言われる)。
私にはいまいち理解しきれていないのだが、どうやら二人が同時に来るらしい。
恐らく中国語を教えてもらう暇なんぞなくて「日本語の授業」になるのでは…..。
まぁ説明に使う中国語だってそう簡単ではないだけに実力養成にはなるのだろうが。
停電、そして騒音被害。全くどいつもこいつも!
今日は何の事前告知もなく、午前八時前から停電だった。
おかげで黒板の字も教科書も良く見えないため、六時間の授業は苦痛そのもの。
さらに寮の公共給湯器も電熱器を利用しているので帰ってもお茶も飲めない。
生水の飲めない中国で「お湯断ち」というのは結構むごいものだと実感した。
お湯がなくても喉は容赦なく渇くので、止む無く近所のスーパーで「キリンライチ」を買う。
飲んで一息ついた頃にようやく電力が回復したらしく、一安心して部屋に戻る。
と、一難去って何とやら。隣のTVの音がやかましくて仕方ないのだ。
壁越しですら中国語の発音どころか言っている内容まで聞き取れる音量である。
ここのTVは何故か電源を入れた直後フル音量になってしまう作りなので、
見ている最中もしくはスタンバイ状態の時にに停電に遭うと
回復してしばらくがその大騒音に見舞われるというのが原因。
私は節電のために主電源を断つ習慣が身に付いているが、
リモコン操作だけで「切った」と思っているとこういうことになるのである。
耐え難いので管理人に電話をかけたら「ここは学生サービス部じゃない!」の一喝で切られる。
普通ならここで何とかしてくれるはずなのに、当直が性悪だったようだ。
言われたんだから聞いてみようかと学生サービス部に電話してみたら、部屋番号を聞かれた。
不審に思いつつ教えると、何故か私の名前を呼ぶ。こっちの話なんざ聞いちゃいない。
とにかく購買の横に来いとのことなので、致し方なく行ってみた。
すると私を待っていたのは全く今回の件とは関係ない学生課からの通知が一枚。
それだけ持って帰るのも不本意なのでそこにいたおばさんに窮状を訴える。
曰く、停電にはつきものの日常茶飯事なので処理の手配はしてあるそうな…..。
不承不承そのまま戻って数分後、よりによって最初の電話の相手が処理をしていた。
どうせやる羽目になるんなら最初から話を聞いてくれりゃいいだろっての(怒)。
師匠と今後の”私的イベント”について打ち合わせ。
昨日の現像は午前中にできあがっていた。休み時間に出来栄えを見せてもらう。
ぼけもなく、悪くはない。しかも写真一枚あたり五角はお値打ちと言えるだろう。
午後にでも取りに行くのかと思っていたので用事がなくなり、ちょっとだけ困る(笑)。
火曜も授業がお昼前で終わるため、残り半日することがないと退屈してしまうのだ。
とりあえず、暇に任せて彼女の買い物に付き合い遠出する。チャリで3kmほど。
スーパーの入り口には有料ロッカーがあり、荷物は強制的に預けさせられた。
暗証番号式だったので意外と面白かったがやっぱり損した気分。
結構ゆっくり買い物をしていたはずが、帰ってもまだ二時を過ぎたばかりだった。
お互い暇で仕方ないのでそのまま二時間ちかく語る。
今月の打ち上げは花園飯店、テスト明けは旅行、来月末に大使館そばの太平洋飯店…..
いつの間にか私と彼女で行くことになってしまっている目的地の数々。
私は繁華街に不案内なので出かけるのは好きだし、彼女はホームシックの真っ最中。
彼女にはあと何日で帰れるかの節目であり、私には物見遊山ということになる。
そんなこんなで知り合った初めの頃に突発で行われたイベント(?)だったのが、
いつの間にか二人の恒例行事になってしまっていた…..いささか懐が心配(笑)。
師匠のために現像屋を探す。凄い光景を目にする。
彼女の「写るんです」が最後まで巻き取られたというので、午後の暇つぶしがてら
近所で現像屋を探すことになった。うろ覚えでは、確か本学構内にあったのだが。
初めはフィルムが売っているということで正門わきのスーパーを覗いたが、はずれ。
雑貨屋を彷彿とさせる購買の小さな店あたりにはフィルムさえ見当たらない。
でも富士フィルムの看板そのものを構内で見掛けた記憶だけは間違いないので、
何件か売店の集まっている食堂わきに首を突っ込んでみた。二人でも勇気が要った。
奥から二間目に、確かに富士の看板がある。しかも焼き増しまで扱っているらしい。
店名を確認したら「復旦大学照片復印字中心」とある。これが「中心」かぁぁ?
ともあれ現像を頼んで「写るんです」を差し出すと…..おばはん、おもむろに破壊。
べりべりと音を立てて外装紙を破り、中のフィルムをいじり出した。
当然ながら、二人とも呆然とする。いつかは壊す物とは知っていても、まさか目の前で!
客の心配をよそに、おばはんは傍らのガキと記念撮影ごっこなんぞに昂じている。
をいをいと思いつつ師匠が「あの…..」と声をかけると、何故か封筒を差し出された。
「名前!」と言ったきり、おばはんは一顧だにせずまた遊び出した。
念のため寮の部屋番号を名前の上に書き添え、半ば恐る恐る差し出す師匠。
明日できるとの返事だったが、そもそも中身は無事なのか??
勢いで「大衆英語」上巻を読破(?)する。
勉強が要るとは言え分かりきったことまで復習するのも気が引けるので、
会話文などの口語表現を重点的に追いかけ、英文と対比して意味を覚える。
重要と思われる文法や目新しい単語(特に動詞・量詞)がある例文を書き写す。
たったそれだけの作業をするだけでも三十課もある教本なので今日までかかった。
何例か書き写しているだけでも文型の法則性が分かってくるのは、今の授業のおかげだろう。
生徒の作った例文に間違いがあるとその場で直してくれる先生がいるのだ。
しかも時によっては「悪くはないが、こうするともっといい」などと助言をくれたりする。
こっちの気分によって有り難かったり鬱陶しかったりする教え方だが、
自習の役にも立つのかと今更になって感心させられた。